初 詣 (2006.1.2/寺院時代) |
「なあ、たくさん人が来てるよ?」 大扉からすぐ近くの高楼に登った悟空が傍らの三蔵を見上げた。 「ああ、あれは初詣に来てるんだ」 三蔵のどうでもよさそうな答えに悟空はくしゃっと顔を歪めた。 「何で?何で三蔵はどうでもいいのさ」 怒ったような半ば拗ねたような声音と表情で三蔵を見上げてくる悟空の意図が見えなくて、三蔵の眉間に皺が寄る。 「だって…だってさ、さんぞ、いっつも神さまにお経上げて祈ってるのに…幸せじゃないの変だ…もん」 今にも泣きそうな声で訴える悟空の気持ちに三蔵の口元が微かに綻んだ。 そんなはずはない。 この目の前で人の為に怒り、今にも泣きそうになっているこの子供のお陰でどれほど毎日が楽しいか。 存在全てが愛しいのだ。 これを幸せと言わずして何と言うのだ。 三蔵は聖職者でありながら神を信じてなどいない。 何より、幸せは己にしか解らないものだ。 だが、目の前で今にも泣きそうに顔を歪めている子供にとっては、己の幸せより、三蔵の幸せの方が大事なようで。 「ホント?」 嬉しそうに何度も「よかった」と悟空は呟いた。 初春の日だまり─────
|
close |