雪の褥 (2006.2.8/旅の途中)
雪降り積もる大地を褥に眠ろう。

たくさんの血を流し、想いを引きちぎってきた。

生きる意味など見つけることもなく、ただ、暗い部屋で生きてきた。
それが当たり前だと思っていた。
罪深い我が身に与えられた当然の罰だと信じていた。

あの日、あの人の気紛れか、慈悲か、世界を与えられた。
初めて見た世界は明るく穏やかで変わることのない春だった。

出逢った彼女(ひと)は柔らかな陽の光のような女性だった。
けれど、汚れた自分には不相応だったのか、この身の汚れが彼女を犯したのか。
いつまでもどこまでも一緒だと笑った彼女は連れて行かれた。

何かを求めても手にはいるのは儚い幻と知らなかった痛み。
何もかもを諦め、ただたゆたうように生きることが相応しい。

あの金色に出逢うまではそう思っていた。

あの生命に溢れた透明な金色。

あの幼子に出逢って初めて世界に陽が射した。
けれど幼子は金色の太陽の元、慈しまれ、育まれていた。
誰憚ることなく笑い、遊び、生きていた。

大地母神が愛し子。
世界にとっての混沌。
純粋に欲しいと望んだ魂。

隔離された世界から踏み出した時、既に金色の太陽も幼子も世界から消えていた。
取り残された想いに世界は色褪せて見えた。

再開した時、己の手は神と呼ばれた矮小な者達の血で濡れていた。
そして、幼子の傍らには金色の太陽が変わることなくそこにいた。

新天地への誘いも求める心も全ては幼子のため。
気付いた想いは既に届かず、願う気持ちは一つと知った。

人と天人との血が己を蝕む。
想いが届かぬのなら残る願いは一つ。

崩れてゆく創りかけの世界で刃を交え、血を流し、叫ぶ。
白い大地に散った小さな花びらの紅い色に違いなどなく。

降り積もる白い雪を褥に消えて往く小さな背中に想いを告げよう。

手に入れた願いと共に───




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