花束を君に (2006.2.14/parallel)
待ち合わせの場所へ行く通り道にある花屋で見かけた早咲きのスイトピー。
色とりどりに所狭しと並べられたその姿に元気なアイツを思い出した。
そう言えば今日はチョコレート屋の思惑に踊るイベントの日だと思い出した。
いつもアイツから貰うばかりだと過ぎった考えに、柄にもないことを思いついた。

一体どんな顔をするのか。

驚くか?
笑うか?
泣くか?

試してみるのもイイかも知れない。
丁度今日はそんな馬鹿なことをしても怪しまれない日だ。
俺は、花屋の店員に声をかけた。




待ち合わせの並木道のはずれ。
重く曇っていた空から白いものが落ちてきた。
片手に抱えたコイツは綺麗なラッピングと赤いリボンで飾られて、持ってる俺が恥ずかしい。

が、それもあと少し。

ほら、アイツが頬も鼻の頭も真っ赤にして、白い吐息を零しながら走ってくる。
さて、どうやって手渡してやろう。





  *****





待ち合わせの時間までまだ少し間があるけれど、あの人はいつも時間より少し早く来ているから。

それに、今日は特別だし。

でも、あの人は菓子屋の思惑に踊らされる日だとか言って、取り合ってはくれないけれど、これは気持ちだから。
いつも愛してくれるあの人への感謝だから。
早く渡したくて。



走って、走って…。



突然目の前に春が来た。
色とりどりの一抱えもある花束。
びっくりしてる俺に押し付けるように手渡して。

「てめえ、風邪引くだろうが」

そう言って、自分のマフラーを巻いてくれた。
一体何がどうなったのか。
手の中の花束と目の前の三蔵を見比べてぽかんとしていたら、

「チョコの代わりだ」

って、言われた。
途端、顔が緩んでどうにもならなくなって、嬉しくて、幸せで、何だかもう訳分からなくて。
目の前で照れたような憮然とした、それでいて困ったような顔した三蔵が滲んで見えた。

「泣くか、笑うかどっちかにしろ、バカ」

って。
何でこの人はこんなに…。
こんなに素敵で暖かなんだろう。

三蔵、大好き。




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