雨の日 (2006.2.25/寺院時代)
瘧のように固まった疲れに身体が重い。
毎日、毎日三蔵法師の仕事だ義務だ責任だと、誰もが出来る仕事を山のように携えてくる。
知りたい情報は何一つ手に入らず、疎ましい情報ばかりが降り積もって行く。
訳知り顔で近づき、掻き回して去って行くバカ共。
若いくせに地位だけを持っているとバカにして見下す奴ら。
負の感情ばかりが向けられる。
今すぐ煩わしい仕事も面倒臭い任務も三蔵という肩書きも全てを投げ出して見も知らぬ場所へ行ってしまいたい。

仕事を終えて部屋に戻るとき、ようやく雨が降っていることに気が付いた。
寒々しい部屋に付けた灯りが、一人を実感させる。
窓辺に近づいて冷たい硝子にもたれれば、降る雨の静かな音に、くすんだ窓硝子を伝う雫に失くした人の柔らかな面影が重なる。

あなたは私の何を見て、何を感じて、何を信じていたのですか?
脆弱で、子供で、強がることしか出来ない、己の力を過信した小さな存在の俺に。

窓硝子に映る己の姿に、あの頃と少しも変わってないことを知る。

あなたを失った後、ただ闇雲に敵を捜して、ただ託された宝を目的もなく探し求めて、この手に得た物は生き延びるための人殺しの方法と己に向けた銃口と
希望も光も未来さえも見えない常闇だった。

雨が降るたび己を責めて、無力を悔やんで、いつかあなたのようになりたいと、儚い望みを未だに抱いて、諦めることができずに、しがみついている。

重くたれ込めた雲のように晴れ渡ることのない心。

また、いつかあの日に見た青い空とあなたがくれたあの紙飛行機が見られる日が来るのだろうか。
願いはいつか本当に叶うのだろうか…。
いつかただ夢見たような安息が…

ただ…

けれど、今目の前にあるのは疲れた己と吐く息で曇るくすんだ窓硝子だけ。
俺は小さく嘲うことしか出来なかった。




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