「きれーだなぁ…」 境内に作られた無数の笹飾り。
その細い枝という枝に隙間無く吊された色とりどりの短冊。
それが風に吹かれて揺れる様はまるで紙吹雪が待っているように見えて、悟空は眩しそうに目を細めたのだった。
明日は七夕。
夜、護摩炊きをして人々が短冊に書き記した願いが叶うようにと仏に祈る。
そして、翌早朝、全ての笹飾りは長江に流されるのだ。
修行僧が一本ずつ持って、三蔵を先頭に行列を組んで。
その様子を悟空は毎年、僧庵の屋根の上から見つめていた。
「俺も…書いてみたいなあ、短冊…」
そう願うようになったのは何時からだったろう。
願いなんて何もないと思っていた。
あの暗い牢獄から出られた、世界が見つかった、三蔵と出会った…それだけで十分だった筈なのだ。
それがどうだろう。
日が経つに連れて、あれもしたい、これもしたいという望みがあとからあとから湧いてきて果てが見つからない。
そして、どんどん強くなる三蔵への執着。
傍に居て欲しい、声をいつも聞いていたい、いつも触れていたい、自分だけを見て欲しい。
泣きたくなる程の望み。
そんな我が儘な望みが叶うならば自分も短冊を書いてみたいと思うのだ。
心の奥底に芽生えたこの望みを叶えたくて。
「でもなあ…あんな狭い所に字を書くんだろ?だったら小さい字を書かなくちゃいけないじゃん…うっわぁ…俺、ちっせえ字書くのめちゃくちゃ苦手だってぇ…」
望みはあっても短冊の大きさが悟空の願いを阻む。
書き慣れない文字は小さく書くにはまだまだ熟練の度合いが足りない。
もう少し、字が上手く書けるようになったら、一度、笙玄に強請ってみようか。
三蔵に強請っても、すげない答えが返って来ることは分かり切っているのだから。
悟空は胸に絶え間なく湧き出る願いを思いながら、風に揺れる笹飾りを眩しそうに見つめた。
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