七 夕−江流− (2006.7.9/寺院時代) |
目の前に差し出された綺麗な色の短冊数枚と筆。 何事かと読んでいた本から顔を上げた江流は、嬉しそうに頬笑む光明三蔵の笑顔と出逢った。 「お師匠様?」 訳がわからないときょとんと表情を無くす江流に、光明は何も言わず短冊と筆を受け取るように促す。 「あの…」 どうしたものかと、戸惑う江流の手に短冊と筆を握らせ、光明は本当に楽しそうに告げた。 「江流、明日は七夕です」 光明の言葉に江流はその綺麗な紫暗を見開いて、にこにこと期待に満ちた笑顔を向けてくる光明の顔を見返した。 「江流、お前まさか、何も願い事がないなんて言いませんよね」 そう言って、江流の顔を覗き込んできた。 「そう、そうですよね。さ、江流、私が見ていますので、ここでささっと書いてしまいなさい」 と、膝まで乗り出してくる。 「江流?」 江流の困った顔付きに光明が気付いた時、江流はぱっと立ち上がった。 「あ、あの…む、む、向こうで…あ、あの…書いて、書いて…か、飾っておきますから、そ、それからお師匠様…あの、あの…見てください」 頭から今にも湯気が出そうなほど、顔を真っ赤にして江流はそう言うと、脱兎の如く部屋から駆け出して行った。 「な、なんて可愛い…」 不器用で恥ずかしがり屋で、意地っ張りな養い子の願いをその後、笹飾りの中に見つけた光明は、その願いが叶うことを心から祈ったのだった。
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