窓越し (2006.10.11/寺院時代)
執務室の窓が見える庭先で遊んでいたら、三蔵が窓越しに俺を呼ぶから、どうしたんだろうってびっくりした。
だって、よほどの用事がなかったら、仕事中に三蔵が俺を呼ぶことなんてないから。
何か用事か、煩いから向こうへ行けとか言うんだろうか、何て思って、

「何?」

って、近づいたらいきなり赤ちゃんみたいに脇の下に手を入れられて抱き上げられた。

「さ、さ、さんぞ??」

訳がわからなくてびっくりしてたら、そのまま抱きしめられてしまった。

最近、忙しかったから壊れたのかなあ…なんて思う程、変。
もう変過ぎて何て言っていいのかわからなかった。
でも、何かあったらしいことはわかるから。
きっとそれは、嫌で辛かったはずだから。

「どうか…した?」

抱きしめられたまま訊いたら、

「なんでもねえ…」

って、くぐもった答えが返ってきた。
そう、訊いても何があったとか、どうしたとか言ってくれない人だから、

「そ?」

って、三蔵の首に廻した手で、三蔵の後ろ頭をぽんぽんって叩いたら、抱きしめられる腕にちょとだけ力が入った。




お腹と三蔵の間の窓枠でそろそろ下腹が痛いなあって思い出したら、また、抱き上げられた時と同じ様に窓の外に下ろされた。

「さんぞ?」

顔を見上げれば、何だかとても疲れた顔をしていた。

というか、辛そうで、苦しそうな顔。
だから、

「元気の出るおまじない」

そう言って、三蔵の首に飛びつくようにして三蔵の唇に自分のそれで触れた。

「…ご…っ!」

文字通り鳩が豆鉄砲喰らった顔になって、真っ赤になった三蔵。
そんな顔初めて見た。
で、びっくりして、慌てた三蔵に捕まらないように飛び離れて、

「続きはまた今度な」

思いっきりにって、笑って踵を返した。
その背中で、きっと怒ったような、笑ったような、困り果てた顔をしている三蔵を思って俺の顔は笑み崩れた。



ちょっとは、元気でたでしょ?
ね、三蔵。




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