三蔵にあげる (2006.12.21/寺院時代・illusted by みつまめ様)

いないいないと夕暮れ時、悟空を探してあちこち歩き回っていた三蔵は、寺院の敷地の外れにある柿の木の上に探していた本人を見つけた。

柿の実が生る頃に初めて柿の木に登っている姿を見つけた。
それから、その姿を見つけるたびに柔らかな柿の木は折れやすいのだと、ゲンコツやハリセンで躾、言い聞かせてきたのに、一向に言うことを聞かない。

柿の実が赤く熟れ出せば尚のこと、頻繁に登っていた。
食欲旺盛な悟空のこと、熟れた柿を食べるための努力なのだろう。

けれど、柿の木は脆いのだ。
折れて落ちたら怪我だけでは済まないことを知って欲しいと三蔵は思っている。
が、親の心子知らず。
理解する気は欠片も見受けられなかった。

「何度言ったら理解しやがる、サル!」

悟空のいる柿の木の下で怒鳴れば、それは嬉しそうな笑顔が返ってきた。

「あ、三蔵、ほらこれ!一番赤くて、甘そうで、でっかいの見つけたんだ」

木の股にあぐらを掻くように座って、何処か誇らしげな様子で、片手に余るような大きな柿を三蔵の方へ差し出して笑う。
夕日を背景にしたその姿は幸せそうで、三蔵は一瞬、怒っていることも忘れて見とれ、微かに口元が綻んだ。

が、ここで甘い顔を見せたら躾にならないとばかりに、三蔵は緩みそうになる口元を無理矢理引き締める。
そんな三蔵の様子など気にもとめず、悟空はするりと柿の木を滑り降り、三蔵の前に立った。

「はい、三蔵っ」

目の前に差し出された柿に少し瞳を見開いてから、

「人の言うことを聞きやがれ、サル」

げいんと、ゲンコツを大地色の頭に三蔵は振り下ろした。

「ってぇ…」

柿を持ったまま殴られた頭を押さえている悟空の手から柿を取り上げると、三蔵はその柿を一口囓った。

「あ…」

上目遣いにその様子を見た悟空の顔がぽかんと表情を無くす。
それに、

「なかなかだ、サル」
「うん!」

そう言って、三蔵はまた柿を一口囓った。
美味しそうに柿を食べる三蔵の姿を見つめ、それに頷く悟空に満面の笑顔が浮かんだのだった。




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