
真っ白な雪の上に広がる赤い色。
黒い屍。
凍てついた銀色。
墨染めの衣が重く湿って赤い雫を滴らせ、足許が赤く染まってゆく。
手にした凶器が冷たく凍えて、手のひらに張りつく。
忙しない吐息が、ここに生き物がいることを示していた。
頬にかかる冷たさに顔を上げれば、白い欠片が舞いだしたことを知る。
少年は切れた口元の血を手で拭い、小さなため息を吐いた。
人づてに聞いた訊ねる手掛かりの話の確認に訪れた山間の小さな山村。
雪道に何度も転んで、滑る道を這うように辿った。
村が見える頂きに着いてみれば、村は黒い煙を上げていた。
風に乗って聞こえる微かな悲鳴とものが焼ける匂いに唇を噛みしめて、雪の道を走った。
そして、村に辿り着いて見たものは、折り重なるように倒れた村人の骸と燃え盛る炎だった。
せっかく手にしかけた手掛かりが、炎の中に消えて行く。
その様子を半ば呆然と少年は見つめていた。
その炎を背景に血に飢えた奴らが少年を見つけた。
赤く染まった雪と黒煙の中、足許に骸を従えた姿は、どこか現実感が無かった。
そんな華奢な少年は血に酔い、殺戮に酔った奴らには、頼りない獲物にしか見えない。
野党達は弱いものをいたぶる快感に口元を歪めて、少年に向かった。
自分に向かってくる足音に、手掛かりを奪い去った奴らのその姿を見つけた。
それぞれ、手に獲物を振りかざし、と下卑た声音を上げた姿が近づいてくる。
途端、少年は握り締めていた銃の引き金を引いていた。
死闘の果て、雪原にひとり、少年が立つ。
累々と横たわる骸と燻る黒煙を背景に立つ姿は、先程と変わらない。
全てを覆い尽くすように舞い落ちる白い欠片と、立ち込めた邪気を払うように吹き出した寒風に呑み込まれて行く村だったものを少年は振り返った。
吹き散る欠片に視界が奪われてゆく。
傷と血に汚れた少年は白い吐息をこぼすと、やがて歩き出した。
その華奢な背中をあっという間に吹雪に姿を変え始めた雪交じりの風が、悲惨な場所から少年を遠ざけるように隠してしまった。
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