菊花酒 (2007.9.9/寺院時代)
「何、作ってるの?」

八月の初め、居間で笙玄が食卓に使っている机に道具を広げているのを見つけて、声を掛けた。

「あ、悟空、これですか?」
「うん」

問い返されて頷けば、笙玄は悟空を側に招き寄せ、机の上に広げたモノの説明をしてくれた。

「これは乾燥した菊の花、蜂蜜、クコの実、シナモン、焼酎です」
「ふうん…で、何が出来るの?」
「薬酒ですよ」
「や…くしゅ…?」

笙玄の言葉に悟空がよく分からないと小首を傾げた。

「菊花のお酒で、目にいいそうなんです」
「菊のお酒が?」
「はい」
「そうなんだ…へぇ…」

感心したように机の上の乾燥した白い菊花を指で突いてみる。

「手伝ってくれますか?」

興味深そうに机の上に広げた材料を突いたり、摘んだりしている悟空に問いかければ、

「うん!」

元気な返事が返った。
そうして作った菊花酒が、今、目の前に薄い紅色の色を湛えてあった。

「俺が持っていく」

ガラスの徳利にいれた菊花酒と杯を持って、三蔵の元へ行く。

今夜は重陽の節句。

菊花酒を飲んで、厄払いもするのだと、作り終えたあと、笙玄に教えて貰った。
高い場所で飲む方がいいのだと、昨日小耳に挟んだ悟空は三蔵を月見酒だと物干場に誘ったのだ。
軽い足取りで徳利と杯、自分用の飲み物を籠に下げ、悟空は三蔵の待つ物干場へと向かった。



まだ、色濃く夏の色が残る七日月の夜のお話。




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