綺麗な月 (2007.10.25/寺院時代)
寝室の窓を全開にして、夜の帷が降りたばかりの空を見上げた。
東の山の端から微かな光が見えて、月の頭が見えた。
じっと、見つめていると、だんだん顔を出す月。
それはまるで生まれてくるような錯覚を悟空は覚えた。

「…きれー」

うっとりと月の出を見つめ、悟空はため息をこぼす。

「三蔵にも見せたいなあ…」

呟いて、三蔵が遠出の仕事に出掛けていることを思い出した。

「……いないんだった」

つまんねぇと、寝台にころりと悟空は寝転がった。
月は山の端を離れ、晴れた夜空にその姿をさらす。
明るい月光が夜空の色を薄めて、昼間の青空の色を夜空の中に浮かべた。
月の明るさに星の瞬きは霞んで、何も見えない。

「明るいなあ…きれーだなあ…」

眩しげに瞳を眇め、悟空は困ったような、泣きそうな表情を浮かべた。

「……さんぞー」

ぽろりとこぼれ落ちた名前に悟空は一瞬、瞳を見開き、くるりとうつぶせになって、布団に顔を埋めた。
やがて微かに聞こえるくぐもった声。
けれど、すぐにそれは止み、くるりと悟空は仰向けにまた、ひっくり返った。
そして、夜空に煌々と照る月に向かって、

「大丈夫だよ」

そう言って、ふわりと笑顔を見せたのだった。 




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