Workaholic (2008.6.7/parallel・from 面食い吸血鬼)
最近、仕事が忙しいらしい三蔵はずうっと、机に向かっている。
悟空が起きている時間は無論、眠っている昼間も起きて仕事をしているらしい。

悟空達と一緒に暮らすようになって、三蔵の生活サイクルは本来の昼型から夜型に変わった。
陽の光の下で暮らすのが当たり前の人間が、妖と同じ闇の下で暮らすのは無理が生じて当たり前のはずで。
そんな歪みを三蔵は感じさせないで今まできたけれど、仕事がこうも忙しいとそうは言ってもいられない。
その内、過労で倒れてしまうのではないかと、悟空は心配でならなかった。

今夜も、三蔵は自室に籠もって仕事をしているのだから尚更だ。

「……ずうっと仕事してる…」

呟けば、傍らの焔が呆れた笑いをこぼした。

「あいつの仕事だからな」

焔の言葉に、悟空は違うと薄く笑いながらカップを傾ける焔を睨んだ。

「そういう意味じゃなくて、働き過ぎって言ってんだ」

ばんっと、机を叩いて言い返せば、焔はため息を吐いた。

「お前な………だったら、休めと言って来ればいいだろうが」
「言っても聞かねえ」
「なら、無理矢理休ませりゃいいじゃねえか」
「でも…嫌がるから…」

悟空の煮え切らない態度に、心底呆れたと言う表情を焔は見せた。
そして、

「バカらしい…勝手にしろ」 

と、言うと、何を言っても悟空の言葉は聞こえないふりを焔は決め込んだ。
恋人同士の痴話喧嘩に付き合う理由はないからだ。
馬鹿らしいにも程がある。
そんな焔を不服そうに睨んだ後、悟空はため息を一つ吐いて立ち上がると、仕事中毒と化している恋人の部屋へ向かった。




「……さんぞ?」

静かな気配に扉を開ければ、デスクに突っ伏して眠る三蔵の姿が見えた。 

「…三蔵」 

愛しい恋人の名前を呟いて近づけば、起きる気配はなく、顔を覗き込めば本当によく眠っていた。
スタンドの明かりに照らされた姿は酷く疲れた影を纏って、悟空は辛そうに瞳を眇めた。
そっと、椅子を引いてその身体を抱き起こすと、軽々と抱き上げ、悟空は三蔵をベットへ運んだ。
そして、後ろから抱くようにして一緒にベットに入った。 

「働き過ぎだよ……」

呟きながら唇で触れる頬は疲労のためか、青い影が差して、ただでさえ白い肌が更に白く青ざめて見える。
三蔵の頭が傾いだ拍子に目の前に曝された白い項も幾分細くなった気がして。

「無茶するなよな…頼むから、さ…」

青く透けた血管を指で辿り、悟空はそこへ口づけた。
一瞬、三蔵の身体が微かに跳ねる。

「すぐ楽になるから…眠って…起きないで」

吐息のような声で呟いた悟空はもう一度、三蔵の項に口付けてその身体をずらし、自分の膝を枕に三蔵をベットに横たえた。

「おやすみ…夜明けまでここにいるからな」

さらりと金糸に触れ、悟空は仄かに笑った。




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