仲秋の名月 (2008.9.14/寺院時代)
笙玄に朝から強請って悟空は月見団子を山程作ってもらった。
白い団子、黄色い団子、あんこにくるまれた団子と三種類。
綺麗に三方に盛られて、寝所の裏手にある物干しに飾られた。
昼間の内に穂の出た雄花を摘んで、それも花瓶に生けて貰った。
あとは、酒の肴と酒と自分用の食べ物。
白木の机に白い布を掛け、その上にちゃんと並べて。
居間からクッションを運んで、準備は整った。

「素敵になりましたねぇ」

最後の皿を運んできた笙玄は、物干しが立派な月見の宴会場に変化していることに笑顔を浮かべた。

「おう!」

誇らしげに頷く悟空の顔は僅かに朱が昇って。

「三蔵様、驚かれるでしょうね。でも、きっと喜んで下さいます」
「うん!」

笙玄の言葉に満面の笑顔を浮かべた悟空に、笙玄も柔らかな笑顔を返した。




それは、寺院の月見茶会もそろそろ終わろうかという時間だった。




それが、昇った月が中天を過ぎても三蔵は帰らず、悟空は物干しの手すりにもたれてぼんやりと月を見上げていた。
そして、いつの間にか悟空は眠ってしまった。
三蔵を待ちくたびれて。

ひくりと、青い瞼が動き、やがて金色の華が夜闇に中に華開いた。

「…ん…、あ──さんぞ、おかえりぃ…」

半ば寝ぼけた悟空は三蔵の姿を見つけて、ほんわりと笑顔を浮かべる。

「ああ…」
「…うん…───っ!」

三蔵の返事に頷き、身動いだ悟空が飛び起きた。

「さ、さ、三蔵っ!」
「何だ?」

起き上がって、目の前の三蔵を指差して声を上げた悟空は、へにゃりと相好を崩し、ぽふんと今度は三蔵に抱きついた。
その忙しくころころと様子の変わる悟空を三蔵は面白そうに見つめて、盃を舐める。

「……おかえり」

くぐもった声音が膝元から聞こえ、三蔵は目の前の大地色の髪を撫でた。
そして、

「ああ…」

返事をしながら、その髪に口づければ、

「遅い…って」

上げた顔が、むくれていた。
その幼い容に、三蔵は自分のそれを重ねた。

「──すりぃ…」

重なった容が離れれば、首筋まで真っ赤になった悟空が益々むくれた顔を三蔵に向けたが、三蔵は楽しそうな微笑みを浮かべるばかりで。
その笑顔にいつまでもむくれていることも出来ず、悟空の顔にもやがて笑顔が浮かび、二人だけの待ちわびた宴が始まったのだった。




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