夏風邪 (2009.8.25/寺院時代)
「えっくし…!」

くしゃみが聞こえたら次は、おうおう鼻水かんでるよ。
今年の夏風邪はそうとう強力らしい。
まあ、三蔵が風邪を引くのは鬼の霍乱とは言え、アイツも人間だし、ここのところ休み無しの働き詰めだったことを考えれば、それも仕方ないって思える。

が、悟空はいたって健康優良児だ。

それはもう病気も裸足で逃げ出すってぇぐらい、健康だ。
熱が出たって聞いても、大概それは知恵熱なことが多い。
純粋に病気になったなんて、知り合ってこの方、初めてだ。

「気持ち悪い…」

ずびずびと鼻を鳴らして、鼻声でソファに寝そべってる姿は何とも言えない。
八戒が甲斐甲斐しく世話を焼いているが、それに答えるのも億劫なのか、珍しく返事がつっけんどんだ。

「熱はないんですね?」
「…うん…」

頷く仕草が面倒臭そうだ。
こう言う時は、放っておいて欲しいんだろうと、思って見ていれば、

「…ごめん。俺…も、寝る…」
「悟空?」
「ゴメン…八戒…」

のそりと立ち上がった悟空が、差し出した八戒の手を避けるように立ち、寝室に姿を消した。

「…悟空…」

人なつっこい悟空の珍しい様子に八戒が戸惑ったまま立ち竦むのへ、

「怠いんだろ。んで、何もかも面倒なんだよ」

言えば、八戒が驚いた顔をして、俺を振り返った。

「悟浄…?!」
「あぁ…つまりは、しんどくて余裕がねえって」

言えば、

「そんなことわかってます」

って、怒った声音が返った。
わかってんなら、構わないのが上策だ。
だから、

「それ、しまって、メモ置いて、邪魔モンは帰りましょ」

そう言って、肩を叩けば、

「邪魔、ですか…───そうですね」

ようやくいつもの笑顔が戻った。
お節介はお前の美徳だけどよ、たまには放っておくのも感謝されるんだって、理解してくれよな。

「ああ…たまにはいいんじゃね?」

頷けば、ため息一つ、後で三蔵達が食べられるように準備を始めた。




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