仕事始め (2010.1.5/寺院時代)
「あれ?」

八戒と悟浄に誘われて初詣なるものに出掛けていた悟空が見たのは、誰も居ない寝所だった。
出掛ける時、三蔵と笙玄が寝所の入口で見送ってくれた。
本当は一緒に行きたかったけれど、何が楽しくて違う寺に参らなければならないのかと、三蔵が突っぱねたので、それもそうだと悟空は納得し、一人で待ち合わせの場所に出掛けたのだ。

初詣に出掛けた寺はそれなりに大きな寺で、三蔵と悟空が住む寺よりは小さかったが、外界を拒絶するような空気はなく、何より参道に並んだ出店が悟空を楽しませた。
八戒と悟浄が甘やかしてくれるのも、楽しかった要因のひとつで。
その楽しかったことを報告したくて、勇んで帰ってきた悟空を迎えたのが、誰も居ない寝所だった。

「…いない、や…」

室内は暖かく、今まで人が居た気配も残っているのだけれど、その気配の本人達がいないことがとても悟空を落胆させた。

「つまんねえの…」

せっかく三蔵と笙玄に土産を買ってきたのに。
楽しかった気持ちまで萎んで、悟空は重ねたクッションに飛び込むようにして寝転んだ。

窓からはいる陽差しは、いつもより温かで、ぽかぽかと悟空の身体を暖める。

「せっかく買ってきたのに…な」

寝返って、手に握っていた袋から小さな手のひらに載る程の干支の置物を撮りだし、床に並べた。
かたかたと首が揺れる張り子の虎。

「おまえらもつまんねえよな…」

ちょんっと、指先で揺れる頭をつついて。
かたかた。ゆらゆら揺れる姿を見つめている内に、悟空は眠ってしまった。

それを待っていたかのように三蔵が、笙玄と一緒に戻ってきた。

「…っったく、何が事初めだ、クソジジィ」
「本当に困った方々です」

珍しく三蔵の怒りに同意する笙玄に、三蔵はちょっと驚いた顔を見せた。
いつもはお仕事ですからと、怒る三蔵を宥める笙玄が、今日に限って三蔵の怒りに同意するから。

「珍しいな」

思わずこぼれ落ちた三蔵の言葉に、

「はい。仕事始めは明日からと決まっていますので、フライングはダメですから」

にっこりと笑顔を浮かべるその背中に何か黒いモノを見た気がした三蔵は、黙って頷く敷かなくて。
その笑顔から視線を外せば、窓際で眠る悟空の姿を見つけた。

「…帰ってたのか」
「はい?」

三蔵の言葉に笙玄が視線の先を覗いて、今度は柔らかな笑顔を浮かべた。

「おや、風邪引きますね。毛布を持ってきます」

うたた寝している悟空の姿に慌てて寝室へ毛布を取りに行く。
それを見送って、悟空の傍に寄れば、床で小さな虎が二匹、首を揺らしていた。

「楽しかったか?」

寝顔に問いかけ、三蔵は虎の頭を小さく弾いたのだった。




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