Swear by moon |
子供がブナの枝に座って大きな月を見上げていた。
大きくて丸い月。 世界を彩る金色の光。 子供の瞳に宿る黄金の光。
その光に包まれる子供の華奢な身体は、今にも消え入りそうなほど儚く。 梢を揺らす風に大地色の髪を撫でられ、月光に抱かれて子供は、空を見上げていた。
柔らかな静けさに満ちた森。
そこへ、微かに枯れ葉を踏む音が近づいてきた。 かさり、かさり、枯れ葉が踏まれる音は近づき、ブナの木の下で止まった。 小さなため息と微かな金属音。 灯る赤い光に誘われるように立ち上る香り。 子供はふわりと月光に染まった微笑みを浮かべた。 声が、聞こえた。
子供は座っていた枝に立ち上がると、飛んだ。 ひらりと、音もなく声の主の前に降りる。
不機嫌な表情を湛えた紫暗の宝石と共に。
この世のどんなモノより大切で、綺麗で、愛しい人。 この人のためなら何だって出来る。 この人の側に居るためだったら何だって我慢できる。 ただ側に在るために。 共に生きて行くその為だけに。
不安を湛えて見上げてくる黄金の宝石。 何よりも愛しい、大切な存在。 この存在のためなら何だってしてやる。 この存在は誰にも渡さない。
声は不安に揺れて。
目の前の子供の姿が、僅かに透けて見える。
渡さない。 触れさせない。
ついっと見上げてくる顎に手を添えて、口付けを落とす。
口付けを深くしながら華奢な身体を掻き抱く。
一年のうちでもっとも月の力が満ちる日。 子供に伸ばされる大地のかいな。 子供に触れる月の衣。 子供を誘う甘い風。 子供を取りまく自然と大地に属するモノ全てが憎くなる季節。 醜い独占欲と焼け付くような焦燥に染まる季節。
どこにもやらない。
自分を掻き抱く愛しい人の思いに答えるように。
求め合う行為に、子供の嬌声が静寂を流れてゆく。 見せつけるための行為。 それでも、子供は幸せに震える。 二人で居るための痛みなら容易いことだから。 どこまでもアナタと一緒に。
月光の夜の密やかな誓い。
end |
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