Swear by moon

子供がブナの枝に座って大きな月を見上げていた。



大きくて丸い月。

世界を彩る金色の光。

子供の瞳に宿る黄金の光。



その光に包まれる子供の華奢な身体は、今にも消え入りそうなほど儚く。

梢を揺らす風に大地色の髪を撫でられ、月光に抱かれて子供は、空を見上げていた。



柔らかな静けさに満ちた森。



そこへ、微かに枯れ葉を踏む音が近づいてきた。

かさり、かさり、枯れ葉が踏まれる音は近づき、ブナの木の下で止まった。

小さなため息と微かな金属音。

灯る赤い光に誘われるように立ち上る香り。

子供はふわりと月光に染まった微笑みを浮かべた。

声が、聞こえた。


「…うるせぇ」


不機嫌なくせに良く通る声。

子供は座っていた枝に立ち上がると、飛んだ。

ひらりと、音もなく声の主の前に降りる。


「さんぞ…?」


見上げたそこに月光を浴びて輝く黄金があった。

不機嫌な表情を湛えた紫暗の宝石と共に。



この世のどんなモノより大切で、綺麗で、愛しい人。

この人のためなら何だって出来る。

この人の側に居るためだったら何だって我慢できる。

ただ側に在るために。

共に生きて行くその為だけに。



不安を湛えて見上げてくる黄金の宝石。

何よりも愛しい、大切な存在。

この存在のためなら何だってしてやる。

この存在は誰にも渡さない。


「…ど、したの?」


伸ばされた手が、シャツを掴む。

声は不安に揺れて。



月光が強くなる。

目の前の子供の姿が、僅かに透けて見える。



渡さない。

触れさせない。



ついっと見上げてくる顎に手を添えて、口付けを落とす。


「ぅん…」


握ったシャツにすがりつく手。

口付けを深くしながら華奢な身体を掻き抱く。




空気が澄み渡り、静謐な気が満ちる季節。

一年のうちでもっとも月の力が満ちる日。

子供に伸ばされる大地のかいな。

子供に触れる月の衣。

子供を誘う甘い風。

子供を取りまく自然と大地に属するモノ全てが憎くなる季節。

醜い独占欲と焼け付くような焦燥に染まる季節。



誰にも渡さない。

どこにもやらない。


「…どこにも行かないよ…三蔵の側がいい…いいよ」


繰り返す口付けの合間に子供が囁く。

自分を掻き抱く愛しい人の思いに答えるように。


「大好き、三蔵が何より大切、大切だから…」


月光に照らされる二人は、やがてひとつになる。

求め合う行為に、子供の嬌声が静寂を流れてゆく。

見せつけるための行為。

それでも、子供は幸せに震える。

二人で居るための痛みなら容易いことだから。

どこまでもアナタと一緒に。





月光の夜の密やかな誓い。




end

close