その日、その時。
悟空は、めずらしく満腹という幸福感を味わっていたところだった。
だから突然現れたやけに露出の高い服を着た、神だと名乗る人物の質問に、食べ物以外の何かを考えた。
何にしようか──。
そういえば、と最近縁があった坤という名の少年を不意に思い出した。
あんなふうに呼ばれたことで、なんとなくくすぐったいような嬉しい気持ちになったことも、同時に思い出して。
試しに言ってみたならば。
髪の毛を抜かれて……なんだか、ちっこいのを出してくれた。
ぶんしーん☆
「んで俺さ、弟がほしいなって言ったんだ。」
にこにこにこ。
そう言う彼は、非常に嬉しそうである。
悟空の手のひらに乗っている橙色のチャイナ服を着たイキモノも、“オリジナル”につられたのか、にこにこ笑っていた。
連鎖反応はそこだけにとどまらない。
悟空の左肩──正確には三本爪の鎧にしがみつくようにしていた、緑色のチャイナを着たイキモノもまた、同じように笑った。
そして、悟空の頭の天辺までよじのぼったらしい紫色の服をきたソレも、一緒になって笑って。
最後に。悟空の頭までのぼる途中、足を滑らせ落っこちてしまい、卓の上に座り込んで頭をなでていた赤い服のイキモノも、笑う空気に気づいたように顔をあげ、にこっとした。
「……可愛いですね。」
「違うだろ。」
反射的に頷きそうになった悟浄は、横手を入れて友人をたしなめつつ、まじまじとそれらの奇妙なイキモノを凝視した。
「問題はそこじゃねーだろが。…弟っていうより、これじゃペットだろ」
窘めたくせに、悟浄の突っ込みも的確とはほど遠い。
ならば残るは。
「なんで4匹もいるんだ?」
弟、四人もほしかったのか?
……ようするに三人とも、この問題の核心に触れるのにちょっとばかり躊躇っていたのである。誰が何のためにやったか、なんてあまり考えたくはない。
考えてみたなら、一つしか思いつかないからだ。
「んーん。別にそうじゃねーよ? だって俺に、ってくれたのはコイツだけだし。」
コイツ、と言って大事そうに両手でそれを抱え持つ。
橙の服を着た──手のひらサイズの悟空。長髪バージョンだ。
くくってある後ろ髪が尻尾のように揺れて、ますます小動物じみている。
ひょっとしてそれが狙いだったのかもしれない。
百歩譲って、その橙色の服を着たイキモノが、悟空への純然たる誕生祝いだとしよう。…それもかなり苦しい解釈だが。
でも、じゃあ──他の三人(匹)は?
それぞれ、赤と紫と緑の揃いのチャイナ服を着た小さな悟空は、一体何のために?
まさにお誂えの色彩揃い。これはもはや考えるまでもなく。
「三蔵たちにだってさ。すっげ気前いいよなー!あ、でも食うなよ? 俺の“ぶんしん”らしーから。もとは髪の毛だし。まずいぞきっと。」
…そう言うからにはきっと、悟空がまっさきにそれを考えたのだろう。
元が髪の毛だと知らなければどうなっていたのか。
三人の内心を余所に、とりあえず見た限りは和やかに、
「何かさ、これが本来の○遊記なんだって。あいつ、何言ってんだろな?」
そう朗らかに続け、
なー?と悟空が同意を求めたならば、他のちっこいのも真似をして、なー?というふうにそろって首を傾げた。
どうやらこれらのイキモノは喋れないようだ。
しかしそれが何の慰めになるのか。
案の定、不機嫌そうな第一声が場を割った。
「……誰が、ンなもん要る…、」
か。と、彼は言うつもりだった。
しかし。
服の色から、おそらくは三蔵担当だろう小猿(この呼称はいよいよもって相応しい)が、うるっと縋るような目で見上げてきた。
悟空の頭の上にいるため、片手で茶色い髪につかまりバランスをとりながら、残ったもう一方の手で三蔵に向かって手を伸ばす。
小さき生きものの必死な様子に三蔵は思わず固まり、それ以上の言葉が封じられた。
それでもしばらく何の反応も返さないのを、小さいながら(身体が小さくなったのだから、理解力も低下しているに違いない)不安に思ったのか。
バランスを取っていたもう一方の手をも、三蔵に向かっていっぱいに伸ばすのだ。
当然。──転げ落ちる。
咄嗟に手を出し受け止めてしまった三蔵は、こわごわと手の中の小猿をうかがい見た。
小猿は吃驚したのか少しの間ほうけていたが、ふと視線に気づいて顔を上げた。
自分を受け止めてくれた手が三蔵のものだったことを知ると──嬉しげに笑った。
……これで、それでも要らない、などと言える人間がいたらお目にかかりたいものである。
三蔵は自分が優しい人間だとは欠片も思っていなかったが、ここで手放した時、後味の悪さは凄まじいものだろうと想像することは容易かった。
しかもこの顔である。あくまで分身にすぎないにせよ、だ。
──最高僧、陥落の瞬間だった。
いちばん厄介だろう三蔵が何とかなりそうなのを見て、悟浄と八戒はほっと胸をなで下ろした。
もちろん二人は、小さい悟空の一匹や二匹、面倒を見るくらい何でもないと思っている。
──このちっこいのが、たとえば清一色であるとか、今回の元凶の神様だとかだったりしたらそれはそれは大問題だが。
悟空の分身なのである。小猿である。
愛嬌は満点だし、見た目もたいへん可愛らしい。
餌を与えれば手懐けるのも容易だろう。
それに、なんでも悟空の誕生日である今日一日だけだそうだし。
八戒が緑色のチャイナ服を着た小さい悟空を、悟空の左肩から。
そして悟浄は、卓の上に座り込み、まだ時々思い出したように打ち付けた頭をさすっていた小さい悟空を。
それぞれすくい上げ、つまみ上げて。
さて、どうやってこの小猿で遊ぼうか──などと考えていたのである。
性質の悪い神様に遊ばれていると知りつつも、その切り替えはいっそ見事であった。
***
橙色の服を着た悟空──紛らわしいので“ごくう”と呼ぶことにしよう──は、部屋の隅で大人しく成り行きを見守っていたジープに感心を示し、一緒に遊びたいというような素振りをした。
ごくうに対して、今日一日は悟空が兄貴分である。
時たま、やっぱりちょっと美味しそうかもと思いつつも、はたまたジープがごくうを食べてしまわないように──これはジープにしてみれば言い分もあるだろう。本当はジープの方こそ、悟空がごくうを食べないよう気を配っているとも思える──気を付けながら、存分にお兄ちゃんぶることができた。
悟空は、ジープの長い首にしがみつくごくうが落っこちないように指で軽く支えてやりながら。
また、ごくうがうっかりジープの首を絞めてしまわないよう見張りながら。
(先程、ちょっと目を離したらジープは半ば痙攣し、息も絶え絶えだったのだ)
──ふと。
あの三人はちゃんとごくうの面倒をみてくれているだろうか、と思ったりした。
悟空がたくさんいるのはひどくややこしいので、皆、それぞれのごくうを連れて、早々に個室に引き上げていったのだが。
やはり自分の分身なのだし、できるだけ相手をしてやってほしいと思うのだ。
──とくに。
金髪の彼の顔が浮かんだ時、悟空は少しばかり不満げな顔つきをした。
誕生日だからと、好きなだけ食事をさせてくれたことには感謝しているが。しかし。
彼の性格では仕方ないと思うものの、いちばんの願いを叶えて貰えなかったことには、やはり不満が残るのだった。
「悟空の分身ですから、甘いモノ好きですよね?」
言いつつ八戒は、取り出した飴玉の包装紙を剥いで、早速ごくうに与えてみた。
ストロベリー味だと思われるうすいピンク色の飴玉は、それほど大きなものではないが、ごくうにとっては手毬ほどのサイズである。
ごくうは、甘い匂いがしたのでつい受け取ったものの、受け取ってからようやくそれが食べ物だと認識したらしく、一拍置いてから顔を喜びに輝かせた。
口を付けようとして、けれどすぐ何かに気づいたようにちょっと顔を上げ、これをくれた者──八戒に向かってうかがうように首を傾げた。
「…食べていいんですよ?」
まるきりリスみたいな反応に、つい声をあげて笑いそうになるも、何とか微笑ですまして促した。
ごくうは安心したようににっこりすると、ちょっとだけ舐めてみる。
気に入ったらしく、またぱぁっと顔を輝かせ、そしてまた舐めてみる──その繰り返し。
途中で、どうやら薄桃色した飴玉の色自体を気に入ったらしく、ときどき少しばかり顔から離して眺めやったりするのだ。
綺麗なものが好きというのも悟空と同じようだった。
食べきれるかという心配は無用だろうが、サイズがサイズだけに時間はそれなりにかかりそうである。
けれどその間八戒は。
「…見てるだけでも全然飽きませんね〜。」
そう言う言葉どおり八戒は、卓の上で飴玉に一所懸命とりかかるごくうを至極楽しそうに眺めながら、さて次は何をあげてみようかと思い廻らせていた。
そしてここにも、とりあえず猿には餌付けだろうと考えた者がいた。
悟浄である。
「おまえ、何食うの?」
訊いてから、コイツ喋れないんだっけというのと、猿相手に食べられるものを訊くなど愚問以外の何ものでもないということに気づき、苦笑した。
物理的に食べられるものならなんでも食うだろう、と。
が。
悟浄の雰囲気から、何となく自分が馬鹿にされたように感じたのか。
──ごくう、にしては珍しく敏感であったと言える。
卓上に降ろしたごくうに、顔を近づけるようにして話していた悟浄の髪を反抗の意を込めて両手で思い切り引っ張った。一点集中でやられるとさすがに痛い。
「おまっ、どっかの坊主のようにハゲたらどうすんだよ!」
悟浄の抗議に、ごくうは動きを止めてしばらくしてから、どこかの坊主、の該当者に思い至ったのか──やはりごくうシリーズは、オリジナルの悟空よりも多少反応が鈍いようである──哀しそうな顔をした。
その哀しみがどちらに対して向けられたものなのかは、定かではない。
理由はともかく、大人しくなってしまったごくうを見て、
「あーもー。ガキがンな顔してんなよ、しょーがねぇな。」
ちょいちょいと猫じゃらしで仔猫を構う感覚で、ごくうを指で軽く小突いてみる。
と、遊んでくれると悟ったのか、途端に悟浄の指にじゃれついてきた。
そんなごくうに適当につきあってやりながら悟浄は、ペットってのも悪くないかも、と結構本気で考えていたりするのだった。
ここに一人、悩める者がいた。玄奘三蔵(23)である。
「………」
この生き物の面倒を引き受けたものの、何をどう相手したらいいものやら。
三蔵の当惑は一種独特で、すこぶる不機嫌だと解釈されそうな空気であったが、やはり伊達に悟空の分身をやっているわけでないのか。
そんな雰囲気をものともせずにきらきらしい目で見上げてくる、ごくう。
放っておけばいいとは思うのだが、しかし。
こうも明らかに何か──遊んでくれるとか何か食べ物をくれるとか、懐っこい小動物なら大抵は期待するようなこと──を、三蔵に望む瞳をされると、妙な義務感にかられてしまう。
サイズに反比例して、与えるプレッシャーは多大であった。
「………」
きらきらきら。
「…………。」
わくわくわく。
「……………八戒に、何かもらってくるから待ってろ。」
負けた。何故だか三蔵はそう思った。
別ににらめっこなどという遊びをしていたわけでもないのに──と。そこまで考えて。
立ち上がり、扉に向かいかけた三蔵は、ふと足を止めた。
くるり、とおもむろに振り返ると、卓の上のごくうを凝視する。
これはつまり悟空の分身だ。反応も酷似している。…多少、鈍いかんは否めないが。
けれどもあくまで悟空の分身であって、悟空本人ではない。
それならば。
「……いい機会かもな。」
得心げにそう呟くと、三蔵は再び椅子に腰掛け、ごくうに向かい合った。
突然、真剣な表情になった三蔵を訝しみながらも真っ直ぐ見つめてくるごくう。
今朝、同じほど曇りのない金の瞳で請われたことを三蔵は思い出す。
──悟空の誕生日。
食事は好きなだけとらせてやったが…。
三蔵は束の間目を伏せ、次にごくうを正面から見た時、思いつきを迷わず実行した。
***
本日最初の登場と同様、二度目の登場もまた唐突だった。
見事な曲線美を有した肢体。
…しかし中身を知る者たちにとってそれは、何ら感銘を与えるものではなかった。もちろん口には出さないが。
「よ!充分楽しんだか、ちび。ん? そろそろ元に戻すぞ。」
「俺、ちびじゃねーよ!」
「ああ、ちびってのはそいつらのことだ。」
──そいつら?
悟空が振り返れば、いつの間にか悟浄と八戒が姿を見せていた。
当然、ごくうも一緒である。
一見する限りでは、どちらのごくうも八戒、悟浄ともに非常によく懐いているように見えた。それぞれの肩に乗り、楽しげに笑っている。
悟空に与えられたごくうにしてもそうだ。
だから、淋しいと思うのはどうしようもない──。
短い間だったがもう充分に情が移ってしまっていた。悟浄、八戒はもちろん、悟空でさえも、自分の分身であるにも関わらず、ごくうとひどく別れがたかった。
彼らの浮かない表情を見て事情を察したらしい神──今回の発端。元凶ともいう──観世音菩薩は、安心させるように告げた。
「心配すんな。別にそいつらは死ぬわけじゃないさ。」
「…でも、髪の毛に戻っちまうんだろ?」
「まぁ、媒体はそうだがな。基本的にはオマエん中に戻るんだ。」
…よく、わからない。
「だからな、そいつらがそいつらとして過ごした記憶とか感情とか全部、お前の中に還るってことだ。」
観音の言うことを完全に理解したわけではなかった悟空だが、とりあえずただ消えるのよりはずっといいということがわかっただけでも、心が軽くなる気がした。
そこへ──。
「……………なんだと?」
低い低い地を這うような声が響いたと思ったら、何かが悟空の足許に纏わり付く感触があった。…どちらかというと何か小さなかたまりがぶつかってくる勢いであった。
「え。あれ? 何おまえ、どーかしたのか?」
ひょいと持ち上げてみればそれは、予想どおりごくうなわけで。
──でも。
「…おまえ、何かすごく顔赤いぞ? どうしたんだよ、どっか具合悪いのか?」
自分と同じ目線にまで持ち上げて、もっと良く様子を見ようとする。
なのに、ひどく落ち着かない様子で、オリジナルである悟空の視線にすら居心地悪げに目を逸らすのだ。耳朶はもちろん、紫色のチャイナの、襟合わせの僅かな隙間から覗く首筋にかけてまで、真っ赤に上気しているようだった。
そのうえ抱えた指から伝わるぬくもりも、悟空自身のそれより微妙に高い気がする。
ぱちぱちと忙しなく瞬きし、三蔵が視界に入ろうものならその慌てぶりは気の毒な程だった。
「……三蔵。コイツにいったい何したんだよ? いじめたりしたんじゃないだろな?」
普段の性格──もとい、行動を知っているだけにそう訊いてしまうのも致し方ないだろう。
「なに、三蔵様。こんなイタイケな生き物いじめちゃったの?」
「三蔵? どうなんですか? そうだとしたらいくらなんでも──、」
非難の視線がこぞって三蔵に集中する。
おかげで、こっそりと人の悪い笑みを浮かべ、笑い出したい衝動に肩が震えるのを必死に堪えている神様のことなど、誰も気にとめてはいなかった。その隙に。
「じゃぁ、ま。そういうことで。俺様の誕生日プレゼント、これにて終了ってな。」
「──っ、オイ!ちょっと待て!!」
三蔵が焦り止めようとするが、待てと言われて止まる神様ではもちろんない。
神がその姿を消したかと思うと。それぞれのごくうが淡く光り、輪郭が淡く滲んで──やがて。
小さな四つの光珠となったそれらが悟空に集まり、その体内へと沈み込んだ。
悟浄と八戒は、その様を名残惜しげに目を細めながら見守って。
悟空も、自身に暖かい空気が流れ込み、胸の奥に光が灯ったような感覚をそのまま受け止め、感慨に耽る。
────というしみじみとした空気は、残念ながら長く保たれることはなかった。
約一名、それどころではなくなったのだ。
瞬間湯沸かし器。
『湯気が出ないのが不思議なくらいだった。』
後に、目撃者はそう語る。
「…どしたよ、馬鹿猿。」
「悟空…?」
不審げな二人の呼びかけなど、悟空は聞いちゃいなかった。
──つい。
つい、件の人物の姿を目で探してしまったのだ。
ぎく、しゃく、と軋む音が聞こえそうな仕草で、彼に。三蔵に向き合って。
とても何かを言いたかった。訴えたかった。
文句だか真偽だか真意だか──それに対する感想だとか。
しかし、顔を見てしまったら舌先まで熱を帯び、しびれたようになってしまい、滑らかに喋ることなど今の悟空には神業並みに難しい。
「さ……、……だ、………こ…、」
三蔵、なんだってあんなこと!!!
悟空は必死にそう言いたかったのだ。
確かに、努力の跡はみられる片言ではある。でもこれだけだと──。
「……貞子、ですか?」
「…三蔵のヤツが、人間ばなれしてるとでもいいたいのか?」
「そういう意味なら一理ありますか、でも…、」
「ああ。アイツ、別にそんな水っぽくないんじゃねぇ?」
「雨、苦手みたいですからね。どっちかというと撥水加工でしょうか。」
「なんだそりゃ。アイツは雨がっぱか。」
「河童はあなたじゃないですか。」
本筋から脱線のため、以下省略。
三蔵は悟空が何を言いたいのかわかっているのだろう。
──非常に決まり悪げに目を逸らす。どことなくふて腐れているようにも見えた。
「……おまえが、くだらねぇこと言い出すからだろ。」
ぼそり。とそれはそれは仕方なさそうに、それだけ言って完全に口を閉ざした。
「……〜〜、だ、…って、…………〜〜!!」
蚊帳の外におかれていた気がしていた二人にも、今度は、悟空が言いたいことはニュアンス的に伝わった。
だからって!!
という抗議なのだろう。
そして彼らの努力──悟空の片言の発言から意味を汲み取るべく──は、とりあえずここで終了となる。
何故なら。
悟空が、ごくうの持つ記憶の衝撃に耐えきれず──つまりは目を回して倒れてしまったのだ。
気を失って後もしばらくの間、悟空は赤い顔をしてうなされていたという…。
「………」
「………」
「………三蔵、あなたいったい悟空に──いえ、“ごくう”に何をしたんです?」
「あんなちっこいのにナニもソレもないだろーが。何言ったか、ってのが正しいんじゃねーの?」
「「三蔵?」」
「……………別に。俺は、ただ、」
「「ただ?」」
「……………………………予行演習をしただけだ。」
何の、とは訊いてはいけない。ふたりの本能が同時にそう警告を発していた。
賢明にも、悟浄と八戒の追及はそこでうち切られたのだった。
はたして、三蔵いうところの予行演習。──しかして本番が。
実際に行われたかどうかは神のみぞ知る(確実にあの神様は知っているに違いない)。
悟空から三蔵へ。
誕生日プレゼント第一希望。
『俺のことどう思ってるか、もーちょっとわかりやすく言ってほしいんだ!』