家主の憂鬱

「おっかえぃ」

檀家の法事を終えて寺へ戻った三蔵は、庫裡の居間のこたつでミカンを美味しそうに食べている生き物の出迎えに持っていた荷物を思わず取り落とした。

「!」
「どうしたの?」

ミカンを咥えて小首を傾げた生き物は三蔵が取り落とした荷物に気が付いた。

「それ何?食いモン?」

すんすんと鼻を鳴らして荷物に近寄るなり、紙袋を逆さまにして中身を廊下に広げた。

「あ、これ!」

言うなり一つの包みを取り上げるとベリバリと包装紙を引き破ってしまった。
そして、

「うっまそうっ」

箱を開け、中に入っていたお菓子を頬ばりはじめた。
そこに至ってようやく三蔵は目の前の様子に気付いた。

「てめぇ、何しやがるっ!」

菓子を頬ばる生き物の首根っこを掴むと濡れ縁に向かって放り投げた。
生き物は菓子箱を抱えたままくるりと半回転し、濡れ縁に足から降りた。

「何すんだよ!菓子がこぼれるだろっ!!」
「やかましい!」

ぶんっと長い物を振り抜く音がしたかと思うと、小気味のいい音が響いた。

「痛ってぇ…」

それでも口に菓子を咥えて、生き物は頭上に降ってきた痛みに頭を抱えて蹲った。

「何すんだよ!?」

がなれば片手にハリセンを構えた三蔵が怒りに染まった様子で見下ろしていた。

「てめぇっ!何時入っていいっつった!」
「ええぇっ!だって寒かったし、ここは暖かいし、食いモンもあるし、いいじゃん。減るモンじゃねぇじゃんか!」

まろい頬を膨らませて言い募る様子に動じること無く、

「減るわ!この底なし!!」

バンっと足を踏み出せば、生き物は三蔵の様子を窺いながら取り落とした菓子箱に手を伸ばし、それを掴むと一目散に外へと出て行った。
それを見送って三蔵は法衣を脱ぎ捨てると、こたつに入りほうっとひと息ついた。

以降、本文にて

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