1.雪の冷たさ
また、白い季節が来た。
岩牢に降り込む白く儚い花びらが子供の素足に触れる。
触れた白は、子供の肌の熱にすぐに消えてしまう。
残る小さな雫。
濡れたことはわかる。
覚えている。
けれど、ここにいると身体は冷たいなんて感じない。
降り落ち、吹き込む儚い白が残す雫は感じないはずの冷たさを思い出させる。
思い出す感覚は指先に宿り、足先に触れる。
柔らかな声が子供を包み、確かに慈しまれたという儚い想いが子供の胸に咲く。
優しい影が子供を抱きしめる。
温かさは感じないけれど、抱きしめられた感覚はこの身体に宿る。
ねえ、誰…?
呼ぶ名前はない。
声を限りに呼びたいのに、呼ぶべき名前はどこにもない。
こんなにも想いは溢れているのに。
呼びたい名前がない。
確かにあるのに―――
はらはらと降り積もる儚く白い花びらは、その白さで子供が忘れた想いに触れ、子供の感覚を呼び覚まし、その白さで子供の耳を塞ぎ、子供の視界から色を奪っていく。
白しかない世界は、この世界に子供しかいないのだと、子供が触れた想いは幻想だと残酷に告げて子供を打ちのめす。
膝を抱え、小さく蹲ることで子供はその痛みに耐え、世界が色を取り戻すその時までじっと待った。
世界の息吹が聴こえるまでただ、息を殺して。
胸の内で高まる欲求を抱きしめて。
――誰か……
以降、本文にて
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