「おい、いつからここは託児所になった?」

執務室から疲れて戻ってきた三蔵は、扉の前でげんなりした顔で傍らの笙玄に告げた。

「たぶん…ついさきほどからだと、思いますが…」

答える笙玄も寝所の居間のあまりな惨状に、声が虚ろだった。

そう、目の前に広がる光景は、きれい好きの笙玄の神経を逆なでするために故意に作られたとしか思えない状態だったからだ。
食べ散らかしたお菓子の残骸、飲み残しのジュースがこぼれた水たまり、読みかけて放っておかれたままの絵本の山、こぼしたジュースを拭いたり手を拭いたであろう痕跡の色濃く残ったタオル、Tシャツ。
その間を悟空よりも幾分幼い子供が三人、騒ぎ回っていた。

「…笙玄…」

笙玄を呼ぶ三蔵の声が震え、今にも爆発しそうなマグマを孕んでいる。

「はい」
「何とか…」

そう言う三蔵の低い声に、脳天気な声が被さった。
三蔵の気配に湯殿から顔を覗かせた悟空が

「あ、お帰りぃ」

ぱたぱたと散らかったものをよけて、湯殿から出てきて、三蔵に近づいた。
その頭に力一杯、ハリセンが振り下ろされた。
スナップの多分に効いた往復の一撃の痛みたるや、一瞬悟空の気を失わせたほどで、鳴り響いた盛大な音に暴れていた子供達もしんと、静まりかえったのだった。

「──…ってぇ!」

頭を抱えて悟空はその場に踞った。

「てめぇ、このバカザル──っ!今すぐ死にやがれ!」
「―っんだよぉ、帰ってくるなりぃ」

三蔵の怒鳴り声に、悟空は涙で潤んだ瞳で三蔵を睨み返した。

「喧しい!何だってんだ、あのガキ共は!!」
「何って…ガキ共?」

三蔵の言葉に悟空は、きょとんと三蔵を見返した。

「ああ、あのガキ共だよ!」

指さす方を見れば、自分より幾分幼い年頃の子供が三人、固まって座り込んでいた。

「お前ら…人間だったんだぁ!」

悟空の言葉に今度は、三蔵がきょとんとする番だった。

「人間だった、だと?」
「うん、だってこいつら連れてきた時は白い狸だったんだ」
「狸…」

嬉しそうに悟空は、床に固まって座り込む子供達の顔を覗き込んだ。
子供達は、悟空の嬉しそうな笑顔に安心したのか同じように笑顔を返す。
三蔵は、錯覚でない頭痛を感じた。



以降、本文にて

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