1.お花見



とっておきの場所の桜の木の下。
大好きな人と美味しいお弁当を持って、気の置けない友達を誘ってお花見に行こう。

「もう散り始めているようですね」

ひっきりなしにはらはらと舞う薄桃色の花びらを見やって八戒が呟く。

「違うよ、まだ、満開になってないよ」

桜の木の中程まで昇った悟空の声が、上から降ってくる。

「え、でもこんなに散ってますよ」
「うん。でもこれは周りの桜たちが降らせてるんだって」
「それはどう言う意味ですか?」

声の方を見上げて八戒が問えば、

「喜んでるだけ。もうすぐ止むから」

と、悟空の笑いを含んだ声が返る。
訳がわからないと、三蔵へ視線をやれば、何も言わず手にした盃を呷るだけで何も言わない。
けれど、悟空の言う通り、花びらの雨は見てる間に止んだ。

「本当に止んだぞ」

地表近くの枝に腰掛けて盃を傾けていた悟浄の声が、呆れに彩られて斜め上から聞こえた。

「ええ…本当に。それにこの木はまだ、満開じゃなかたんですね」

悟浄の声に頷きながら八戒は、桜の木を見上げた。
その八戒に、

「今、満開になる」

三蔵がクソ面白くもないと言う顔で答えた。

「はい?」
「あっ?!」

八戒と悟浄が何を言っているのかと、三蔵を見やった時、三人の頭上から悟空の歓声が聞こえた。
その声に惹かれるように振り返った二人の瞳が見開かれた。



以降、本文にて

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