飴 |
「ただいま──っ」 笙玄と買い物に出掛けていた悟空が、頬を紅潮させて帰ってきた。 いつ見てもその姿は、尻尾をちぎれんばかりに振っている子犬に見える。 「さんぞ、これ、笙玄に買って貰った」 そう言って差し出した手には、柔らかな彩りの飴の入った硝子瓶。 「そうか」 俺の了承に悟空は頷くと、そのまま俺の足下に座り込んで、硝子瓶を開け始めた。 「たくさんの荷物を持って付き合ってくれたほんのお礼です」 そう言って笑った。 それを見送って、俺はまた新聞を読み始めた。 「さんぞに、あげる」 飴と悟空を見比べれば、悟空は自分が食べるよりも先に、俺に食べさせるつもりで飴を差し出しているようだった。 俺に差し出さずに、自分で食べればいいものを。 そんな様子に、いらないと答えるのが何となく憚られて答えないでいると、 「いらない?」 小首を傾げて訊いてくる。 「嫌いだった?飴」 少し不安な色を金瞳に滲ませて。 「いいや」 と、答えてやる。 「なら、食べて?」 そう言って、また、手に持つ飴を俺の口元へ差し出してきた。 そう言えば、ずいぶんと悟空に触れていないことを思い出した。 俺は口元にあった飴ごと悟空の指を徐に口に含んだ。 「さ…んぞ?」 目元を朱に染めて、困ったような、居たたまれないような表情で指ごと飴を舐める俺を見つめて。 くたりと力が抜けた悟空の口内に、飴を残して口付けから解放してやった。 「……さん、ぞのバカ…」 飴を口に入れたままの悪態は、いつも以上に舌足らずで。 今夜は、覚悟しておけ、悟空。 |