飴
「ただいま──っ」

笙玄と買い物に出掛けていた悟空が、頬を紅潮させて帰ってきた。
俺は読んでいた新聞から顔を上げて頷いてやる。
すると、嬉しそうに笑って、抱えた荷物を食卓用の机に置くと、俺の方へ駆け寄ってきた。

いつ見てもその姿は、尻尾をちぎれんばかりに振っている子犬に見える。

「さんぞ、これ、笙玄に買って貰った」

そう言って差し出した手には、柔らかな彩りの飴の入った硝子瓶。

「そうか」
「うん!」

俺の了承に悟空は頷くと、そのまま俺の足下に座り込んで、硝子瓶を開け始めた。
俺は買ってきたモノを片付けている笙玄に視線を移した。
と、今のやり取りを聞いていた笙玄は、

「たくさんの荷物を持って付き合ってくれたほんのお礼です」

そう言って笑った。
それに俺が頷くと、笙玄はほっとしたような表情を浮かべて、厨に食材を抱えて入って行った。

それを見送って、俺はまた新聞を読み始めた。
が、すぐに僧衣の裾が引かれた。
何だ?と、引っ張った主を見れば、飴を一つ差し出していた。

「さんぞに、あげる」

飴と悟空を見比べれば、悟空は自分が食べるよりも先に、俺に食べさせるつもりで飴を差し出しているようだった。

俺に差し出さずに、自分で食べればいいものを。

そんな様子に、いらないと答えるのが何となく憚られて答えないでいると、

「いらない?」

小首を傾げて訊いてくる。
それでも答えないでいると、瓶を床に置き、立ち上がって、俺の目の前に飴を差し出した。

「嫌いだった?飴」

少し不安な色を金瞳に滲ませて。
俺は小さく息を吐き、

「いいや」

と、答えてやる。
すると、

「なら、食べて?」

そう言って、また、手に持つ飴を俺の口元へ差し出してきた。
差し出す指と不安と期待に微かに潤んだ瞳が、無意識に俺を煽ってくる。

そう言えば、ずいぶんと悟空に触れていないことを思い出した。
思い出せば、触れたくなるのが人情か。

俺は口元にあった飴ごと悟空の指を徐に口に含んだ。
途端、悟空の肩が揺れる。
そのまま悟空の身体を引き寄せ、足の間に立たせた。
悟空は少しずつ頬に朱を登らせながら、逆らわない。
黙ってされるがままでいる。

「さ…んぞ?」

目元を朱に染めて、困ったような、居たたまれないような表情で指ごと飴を舐める俺を見つめて。
俺は飴だけを口に残し、悟空の指を離してやった。
すると、悟空の口から小さな甘く色付いた吐息が漏れる。
それを合図に、俺は悟空を膝の上に抱き上げ、久しぶりに悟空を味わった。

くたりと力が抜けた悟空の口内に、飴を残して口付けから解放してやった。
途端、首筋まで真っ赤に染めて、快感に潤んだ瞳で睨んできた。

「……さん、ぞのバカ…」

飴を口に入れたままの悪態は、いつも以上に舌足らずで。
俺は思わず笑みを零した。

今夜は、覚悟しておけ、悟空。

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