眼 鏡
新聞を読む時、三蔵は眼鏡をかける。

普段はかけていない。
仕事する時も、本を読んだりしてる時も。

そう、新聞を読む時だけ、縁なしの眼鏡をかける。

目が悪いわけない。
だって、俺が落とした小さなモノ見つけるのは上手だし、遠くのモノも近くのモノもちゃんと見えてるから。
そうでなきゃ、あんな正確な射撃は出来ないはずだから。

でも、新聞を読む時だけ、銀色のツルの眼鏡をかける。

三蔵の不思議。




窓辺の長椅子に置かれた三蔵の眼鏡が、午後の陽差しを浴びて光っている。
折りたたんだ新聞の上に置かれたそれ。

透明なレンズを通した陽差しが、新聞の上に小さな虹の影を作っていた。
俺は長椅子に頬杖付いて、それを見ていた。

三蔵は今、来客中。

笙玄が呼びに来て、嫌そうな顔して綺麗な衣に着替えて出掛けて行った。

「なんで、三蔵はコレかけて新聞読むんだろ…?」

そっと、触れてみた。

硬質で透明な硝子。
細くて華奢な眼鏡のツル。

持ち上げてみる。

重さがないように軽くて、ちょっと冷たい。
いつも新聞と一緒に三蔵の傍にある。

ちょっと震える手で、かけてみた。

世界が湾曲して、変な具合に光って見えた。
そのまま、三蔵の真似をして、新聞を広げて・・・・・。

「…っれぇ?ちゃんと見えない」

見下ろす新聞の文字はぐちゃぐちゃで、黒い細かい点々が変な模様。

「き、もち…悪りぃ…」

俺は新聞を投げ出して、眼鏡を外した。
途端、世界が明るく、綺麗に見える。

「あんなぐちゃぐちゃで、三蔵ってなんで新聞読めるんだ?」

結局、疑問が大きくなるだけで、何も変わらなかった。
俺は、新聞を元通りにたたんで、眼鏡をその上に置いた。
で、長椅子に転がって新聞の上に置いた眼鏡をもう一回眺めた。

よくわかんないけど、綺麗だし、眼鏡をかけた三蔵はいつもと違う感じがして、格好いいからいいや。

どんな三蔵も俺、大好きだから。

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