向日葵
夏の陽差しのような笑顔。
大輪の向日葵のようなアイツの輝き。

いつの間にか気持ちの奥底に住みついた子供。

拾った時、全てを諦めていた。
笑うことすらなく、強張った表情ばかりが目に付いた。

人も通わぬ山奥の頂きに設けられた岩牢で踞っていた。
外に出た時に見せた柔らかな笑顔が忘れられなくて。
気が付けば連れ戻っていた。

四季折々の変化や些細な日常の発見、経験。
その全てがアイツを眩しい存在に変えて行く。



「三蔵はね、俺の太陽なんだよ」



そう言って陽差しの中で笑うその姿こそが太陽だと、何度思っただろう。
何処までも真っ直ぐで、透明な存在。
大地と自然が愛して止まぬ大地母神の落とし子。

時に不安定で脆く、時に頑固で、誰よりも強い。
守らなくていいのに、守りたい存在。
明るい世界の象徴なんだと思う。




そんなアイツが、日のよく当たる奥の院の庭先に小さな花壇を今朝から笙玄と一緒に作っている。

「市場で見つけたのです。まるで悟空そのものの様な気がしましたので、つい…」

照れくさそうに笑って笙玄が昨日、俺に差し出したのは向日葵の種。
その袋に印刷された向日葵を見て、俺の口元が僅かに緩む。

アイツに対して思うことは、皆同じらしい。

「それで…あの、奥の院の庭にこれを植えてもよろしいでしょうか?」

遠慮がちに伺いを立ててくる笙玄に、頷くことで許可を出した。
お陰で、今朝からアイツが喧しい上に、付き合わされている。
だからといって、俺が花壇作りを手伝うわけでなく、日陰に座って二人の様子を見ているだけだ。

それでもそんなことが嬉しいのか、何度も俺の方を振り返っては嬉しそうに笑いやがる。
本当に、何がそんなに嬉しいんだか・・・・。
まあ、俺は仕事がさぼれるのだから文句はない。

しかし、アイツはどう贔屓目に見ても、笙玄の邪魔をしているとしか見えない。
煉瓦を積むという単純なことすらまともに出来ないらしい。
それでも一生懸命に手伝って、何とか形なった花壇。
そこへ土を足し、肥料を蒔いて何とか花壇ができあがった。

そして、嬉しそうに向日葵の種を植える向日葵の子供。

この夏は大輪の向日葵の花とそれに負けないアイツの笑顔が拝めるらしい。

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