新 聞
新聞って何が面白いんだろう。

難しい字がたくさん書いてあって、それも細かい字でびっしり。
色も付いてないし、綺麗な絵も描いてないのに。

三蔵は毎日、新聞を読む。
最初のページからゆっくり丁寧に。
お茶を飲みながらだったり、煙草を吸いながらだったり、ひなたぼっこしながら。

仕事の邪魔をすると怒られるのは当然でも、新聞を読んでいる時に邪魔しても怒られる。
でも、新聞を読んでいる時の三蔵は、仕事もしてないし、暇そうだし、それに大抵休憩中。
それなのに、邪魔すると怒る。

俺だって構って欲しいのに。




夕食の後、三蔵は今日は忙しいとかで、また、仕事に戻って行った。
笙玄も三蔵の仕事を手伝わなければならないとかで、一緒に仕事をしている。
だから、居間には俺一人。

今日はまだ、三蔵は新聞を読んでいない。
だって、今朝笙玄が持ってきて置いた場所にそのまま、綺麗なままで置かれているから。

お風呂に入って、先に寝てろって言われてるから、先にお風呂に入って。
戻ってきてもそこに新聞は、綺麗なまま。

濡れた髪を拭きながら新聞を見下ろせば、垂れた雫が新聞の上に黒くて丸いシミを作っていく。
ぽたぽたと、音を立てて。

「お前は、どんなに遅くなっても三蔵、読むんだよな…」

馬鹿げたことだと想う。
よく分かってる。
でも、何かむかつく。
腹が立ってくる。

俺がどんなに構って欲しくても、仕事だ命令だって、振り返りもしないで三蔵は出掛けて行く。

我が侭だって分かってる。
知ってる。
でも、寂しいから。
哀しいから。

コイツは何があっても、絶対、三蔵に必ず構って貰うんだ。

今夜も俺が眠った後、仕事の終わった三蔵が寝る前に、新聞を読むんだ。
ゆっくり時間をかけて、丁寧に読んで。
俺のことなんか少しも思い出さないで。

「…三蔵は俺のなのに……」

シミだらけになった新聞。
俺は戸棚からマジックを出してきて、濡れてぼこぼこになっている新聞をひっくり返すと、そのマジックででっかく三蔵への文句を書いた。

「お前なんか、嫌いだ。構ってくれない三蔵も嫌い」

マジックを放り出し、俺はちょっと、すっきりした気分になった。
そのまま寝室へ行って、困った三蔵の顔を想像しながら眠った。

俺を一人にする三蔵なんて、嫌い。
でも・・・・・好き。

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