香 水 |
悟空は人工物が苦手らしい。 嫌いという域にまでは達していないが、好きでないのは明らかだ。 例えば装飾品。 「気持ち悪い」 らしい。 あと、香水。 以前、後宮の女どもや貴族のご令嬢や奥方を相手にして、俺の身体に染みついた人工的な花の香りに、無意識に俺を避けてくれた。 そう、悟空は鼻が利く。 動物だからそれも当たり前だと言えばそうなのだが、特に俺に関しての嗅覚は鋭い。 ゴメン被りたい。 悟空は屈託なく笑って、遊んでいればいい。 そこまで考えて、現実に引き戻された。 「三蔵様?」 笙玄の訝しげな声と顔が、俺を覗き込んでいた。 「…あ、いや」 差し出された書類を受け取りながら、ふわりと薫った匂いに俺は笙玄を振り返った。 「おい」 ぐいっと笙玄の僧衣を掴んで嗅いだ。 「さ、さ、さ、三蔵、様?」 笙玄の僧衣から薫った匂いは、今朝の悟空と同じ薫り。 コイツと悟空が親子のように引っ付いているのはいつものことだ。 「この匂いは何だ?」 笙玄を咎めるような声が出てしまった。 「へっ?」 俺の言ったことが理解できなかったのか、きょとんとした顔をした笙玄だったが、すぐに気が付いたのか、破顔した。 「ああ、これは…ちょっと失礼します」 僧衣の懐を探って、掌ほどの小袋を俺に差し出した。 「匂い袋?」 僧衣から手を離した俺に笙玄はその匂い袋をくれた。 「悟空とおそろいなんですけど、よろしかったらお使い下さい」 そう言って、笑いやがった。 「笙玄…」 俺が何か言う前に、笙玄は扉の傍に移動して、 「私に焼き餅、焼かないで下さいませ」 そう言って、部屋を出て行った。 |