指 輪
昨日、床に落ちていた指輪を拾った。
綺麗な赤い石の付いた金色の指輪。

「きれー」

窓辺に持っていってお日様に透かすと柔らかな赤い光が生まれた。
でも、何でこんなモノが部屋に落ちていたんだろう。
この部屋に入れるのは、俺と三蔵と笙玄ぐらいで、他の坊主達が入ってくることは滅多にない。
まして、お客さんなんて来るわけもなくて。

「誰のだろう…?」

三蔵のモノ?
笙玄のモノ?

俺のモノじゃない。
だって、俺、こんな指輪、買えないし、貰う人も居ない。
上げる人だって。

指輪を小指に通してぷらぷらさせていたら、三蔵が戻ってきた。

「おかえりー」
「ああ…」

一目散に駆け寄って、腰に抱きつく。
返事と一緒に頭を撫でて貰って、三蔵から離れた。
と、腕を掴まれた。

「何だ、これは?」
「へっ?」

何事かと三蔵の視線の先を見て、俺は左手の小指に嵌めたままだった指輪を目の前に翳した。

「これ、昨日ここで拾ったんだ。綺麗だろ?」
「この部屋で拾った?」
「うん。床に落ちてたんだ。あ、三蔵の?」

そう言って、左手を三蔵に差し出せば、違うと、頭をはたかれた。

「じゃあ、笙玄のかな?」
「訊いてみりゃいいだろうが」
「そっか」

ぽんと、手を打つと、三蔵が呆れたようなため息を吐いた。
そこへ、おやつを持って笙玄が部屋に入ってきた。

「お茶をお持ちしました」

にっこり笑ってそう告げる。
俺は用意をする笙玄を手伝う。
と、並べた湯飲みの中にちりんって音がして、小指に嵌めていた指輪が落ちた。

「あ、ごめん…」

湯飲みの中の指輪を取ろうとしたら、笙玄の手が一瞬早く指輪を取ってしまった。
それにびっくりして笙玄を見上げたら、指輪を握り締めてぎゅって、目を瞑っていた。

「…しょ、うげん?」

その姿がまるで泣いているように見えて、俺は言葉が続かなかった。
しばらくそのままの無言で息詰まるような沈黙が続いた。
だって、何て声をかけて良いのか、わからなかったんだ。
それを破ったのは、三蔵の呆れたような声だった。

「なにやってんだ?」
「…えっ…?」
「……!」

びっくりして三蔵を見て、もう一回笙玄を見たら、もういつもの優しい笑顔になっていた。

「それ…笙玄の?」
「はい」
「訊いていい?」
「いいですよ、悟空」
「うん」

俺が頷くと、笙玄は話し出した。

「これは、私の宝物なんです」
「宝物?」
「はい。唯一残っている両親の形見なんですよ。先日、失くしてしまって諦めていたので…」
「そっか…」
「悟空が見つけてくれたんですね。ありがとうございます」

そう言って笙玄がそれは嬉しそうに笑った。
それが嬉しくて、俺も笑い返す。
そうしたら、三蔵が笙玄を呼んだ。

「なんでしょう?」

長椅子に座る三蔵の傍へ寄った笙玄に、三蔵が細い金の鎖を差し出した。

「三蔵様?」
「これに通して首に下げとけ」
「あ…はい。はい…ありがとうございます」

泣きそうな顔して笙玄が鎖を受け取った。
あの鎖って、確か前に俺が見つけた水晶を通すために三蔵が買ってくれたやつ。
でもいいや。
笙玄が大事なもの失ったりしないためなら。
後で、また、三蔵が買ってくれるだろうから。

よかったね、笙玄。

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