車 |
見上げる空と一緒に白い雲が後ろへ流れてゆく。 走る速度と同じ速さで流れてゆく。 三蔵と一緒に乗った大きな黒塗りの車。 車なんてあんまり走ってないし、八戒のジープぐらいしか見たことないから珍しい。 それでも俺は、訊きたいことがあって、何度も訊いている。
今日は、正式な装束の三蔵と着飾った俺。 何で俺まで一緒に行かなくちゃならないのか分からない。 「なあ、どこに行くんだ?」 何回訊いても行き先を答えてもくれない。 でもやっぱり気になるから。 「なあ…三蔵ぉ……」 白い衣をそっと掴んで揺すれば、ずっと閉じられていた瞳が開いて、やっと俺を見てくれた。
不機嫌なのは、わざと?
そんなこと考えていたら、三蔵が真剣な顔で話し出した。 「いいか、絶対、俺の傍から離れるな」 俺がそう頷くと、三蔵は凄く安心したような息を吐いた。 「さんぞ?」 衣を掴んだ手を離されて、抱き込まれた。 いつもだったら絶対、側に居ろなんて言わないくせに、今日は傍から離れるなだって。 さっきまでの不機嫌が、嘘みたいに、三蔵の空気が柔らかくなった。 「…なんかあった?」 抱き込まれた身体を少し離して顔をみれば、 「何にもねぇよ」 そう言って、笑って、触れるだけの口付けをくれた。 柔らかな絹の感触と三蔵の匂いに、俺の顔は緩んで。 これから行く先で何が待ってるのか知らないけれど、そこへ行き着くまでは、三蔵と二人っきり。 ほんの少しの幸せの時間。 |