携 帯 |
「なあ、三蔵、携帯電話って、何?」 不思議そうな顔をして悟空が夕食後、広告を持って傍にやってきた。 「携帯電話?」 差し出した広告には、色とりどりの携帯電話の写真が、派手派手しい文字と一緒に印刷されていた。 「電話だろうが」 そうなんだと、分かったのか、分からなかったのか判別の付かない顔で頷く。 「じゃあ、三蔵は持ってる?」 期待に染まった瞳で見つめてくれる。 「いや、持ってねぇ」 俺の返事に、悟空の顔が落胆の色に染まる。 「何で?」 不思議そうな顔で訊きやがる。 「何がって、猫の首に鈴付けるようなまねされてたまるかってんだよ」 いやに落胆するから、今度は俺が訊いてみる。 「悟空?」 俯いた顔を上げさせ、理由を話せと金眼を覗いた。 「だって、持ち運びが出来るって笙玄が教えてくれたから、三蔵が仕事で居ない時に声、聞きたくなった時、すぐに聞けるって…嬉しかったから……」 ほんのり頬が染まってやがる。 「お前は欲しかったのか?」 欲しかったと、全身で落胆する悟空の気持ちが分かっていても、ちゃんと悟空の口から聞きたい。 「…うん。だって、遠出するとなかなか帰ってこないから、淋しいんだもん」 益々顔を染めた悟空の嬉しい答えに満足しながら、少しだけ手の内を見せてやった。 「悟空」 腕を取って引き寄せ、足の間に立たせる。 「お前の聲は、いつも聴こえてるから俺は淋しくねぇんだよ」 途端、悟空の全身に小さな震えが走った。 「そう、お前はいつも俺と一緒にいるんだよ、悟空」 そのまま、悟空の耳朶に口付けてやった。 「……うれし…」 たまには、良いだろう? |