携 帯
「なあ、三蔵、携帯電話って、何?」

不思議そうな顔をして悟空が夕食後、広告を持って傍にやってきた。

「携帯電話?」
「うん、これ…」

差し出した広告には、色とりどりの携帯電話の写真が、派手派手しい文字と一緒に印刷されていた。

「電話だろうが」
「電話なの?」
「電話だ」

そうなんだと、分かったのか、分からなかったのか判別の付かない顔で頷く。

「じゃあ、三蔵は持ってる?」

期待に染まった瞳で見つめてくれる。

「いや、持ってねぇ」

俺の返事に、悟空の顔が落胆の色に染まる。

「何で?」
「当たり前だ」
「何が?」

不思議そうな顔で訊きやがる。

「何がって、猫の首に鈴付けるようなまねされてたまるかってんだよ」
「猫の首に鈴?」
「ああ、そうだ。何処にいてもすぐ捕まっちまって、身動きもできやしねぇだろうが」
「やなの?」
「嫌だね」
「そっか…」

いやに落胆するから、今度は俺が訊いてみる。

「悟空?」

俯いた顔を上げさせ、理由を話せと金眼を覗いた。

「だって、持ち運びが出来るって笙玄が教えてくれたから、三蔵が仕事で居ない時に声、聞きたくなった時、すぐに聞けるって…嬉しかったから……」

ほんのり頬が染まってやがる。
と言うことは、俺に携帯電話のことを聞く前に悟空は笙玄に訊いて知っていたってことじゃねえか。
だが、可愛いことを言う。

「お前は欲しかったのか?」

欲しかったと、全身で落胆する悟空の気持ちが分かっていても、ちゃんと悟空の口から聞きたい。

「…うん。だって、遠出するとなかなか帰ってこないから、淋しいんだもん」

益々顔を染めた悟空の嬉しい答えに満足しながら、少しだけ手の内を見せてやった。

「悟空」
「…さん、ぞ?」

腕を取って引き寄せ、足の間に立たせる。
そして、いつになっても華奢な身体を軽く抱き寄せて、その耳元で囁いてやった。

「お前の聲は、いつも聴こえてるから俺は淋しくねぇんだよ」

途端、悟空の全身に小さな震えが走った。

「そう、お前はいつも俺と一緒にいるんだよ、悟空」

そのまま、悟空の耳朶に口付けてやった。
すると、がばっと首筋に抱きついて小さな声が返ってきた。

「……うれし…」

たまには、良いだろう?

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