ささやかな風景 #13

もう秋は終わったのだろうか。
そんな疑問を抱く程に、冷え込んで、初雪の頼りさえ届いてくる。
確かに、空気は真冬の時のように澄み渡り、痛さを感じ程だ。
だが、世界は秋を盛りと錦に彩られている。
夏が長かった所為なのか、色付くのが遅れた木々が、まるで季節を追われるように忙しく一度に色付き、葉を散らしている。

本当に忙しない。

人の営みが忙しないのは我慢できるが、自然が忙しないのはどうにも落ち着かないことに俺は最近気付いた。
なぜなら、養い子の小猿が落ち着かないからだ。
あれは大地母神が望んで仙石から生み落とした存在。
世界の混沌の象徴だと言うご大層な存在であるのだが、俺から見れば単なる騒がしい子供だ。

だが、大地と自然の申し子であるアレは、自然の営みに敏感で、自然の変化に影響されるらしい。
変化が大きければ変調を来すらしい。
体調が悪かったり、気分が塞いだり、また、その反対も。
だから、昨今の気候の変調も勿論、もろに影響を被って、騒がしいのだ。

そんな中で、今日は朝からすこぶる機嫌が良いようで、大騒ぎをしていた。
雪も降っていないのに、庭の木々が白いと。
それはもう大騒ぎで部屋へ駆け込んできた。
その上、人の手を引っ張ってクソ寒い庭先へ連れ出しやがった。

「ほら、あれ!」

指差された方を見れば、確かに木々の葉は白く染まり、上って間がない太陽に輝いていた。
そのキラキラとした眩しさに瞳を眇めてよく見れば、それは葉に霜が降りた姿だった。

「霜が降りたのか…」
「霜?!」

俺の言葉に不思議そうに小首を傾げて見せるのへ、

「昨日の夜は冷え込んだからな、空気中の水分が冷えて固まったんだよ」

と、説明してやれば、

「それが…霜?」
「ああ、そうだ」

頷いてやった。
すると、酷く感動した様な顔付きで日に照らされた木々を眺めては呟いていた。

「…霜…霜か…」

その様子に小さく吐息をこぼして、俺も霜に覆われた木々の梢を見上げた。
いつの間にかここの季節も、もう初冬を迎えていたらしい。

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