ささやかな風景 #14

寝過ごした、と思って飛び起きたら、まだ、真っ暗だった。
時計を見たら夜中で、凄く損した気分になった。
カーテンを引いて寝なかったから、月の光が入ってきていて、一人の部屋をぼんやりと照らしていた。

「……目、覚めちゃった」

呟けば吐く息が白くて。
今夜は冷え込んでいるみたいだった。

「寒…」

薄い夜着が寒さを吸って、冷たさを伝えるから俺は慌てて布団に潜り込んだ。
そして、誰も眠っていない三蔵の寝台を見やった。
薄ぼんやりとした月光に照らされた寝台はどこか冷たく見えた。

いつもは三蔵が眠っているのだけれど、今は誰も居ない。
三蔵は暫く前から遠出の仕事に出掛けていない。
でも、もうすぐ帰ってくるという、連絡が昨日、届いた。
だから、目が覚めたんだろうか。

「明日…帰って来るわけじゃないのにな」

何だかそう思うと、自分の行動が可笑しく思えてくる。
三蔵とここで暮らし始めた頃とは違うのに。
必ず三蔵はココへ帰って来ると、知ってるのに。

「…バッカじゃん、俺」

呟けば、笑いが込み上げてくる。

「でも…さ、やっぱり待ち遠しいや」

言って、窓に視線を移せば、微かな気配がした。

「?」

起きだして、窓に張りつけば、月光の中を舞う微かな花弁。

「………雪…?!」

目をこらせばそれは確かに雪の欠片で。
空を見れば煌々と月が夜空を照らしていた。

「変なの…でも……」

三蔵が帰る日、積もらなければいいと、思った。

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