ささやかな風景 #16 −二十六夜俟−

「七草なずな、すずな、すずしろ、ほとけのざ。ごぎょう、はこべら、せり…」

歌いながら子供が庭先で草を摘む。

「これはぁ?」

傍らの小鬼に見せれば違うと首を振る。

「ちがぁうの?」

言えば、小鬼が頷いた。

「えっと…うんとぉ…」

摘み籠をまだ雪の残る地面に置いて、草むらへ頭を突っ込もうとした身体が不意に、浮いた。

「あっれぇ…」

驚いて振り返れば、養い親が呆れた顔をして子供を吊り上げていた。

「さんぞぉ─っ」

養い親の顔を見た途端、子供は満面の笑顔を浮かべた。
それに、

「そんなとこに頭を突っ込むな」

と、軽く睨まれて、子供の顔から笑顔が消えた。

「だってぇ…まだ足りないもん」

吊り上げられた体勢から養い親の腕に抱き抱えられて、子供は三蔵の足許に籠を抱えて立つ小鬼を指差した。
そこには摘み籠一杯に摘まれた七草が雪の雫を纏って収まっていた。

「十分だよ、悟空」

言えば、

「ホント?」

と、小首を傾げて三蔵の顔を覗き込んでくるのへ、

「ああ、本当だよ」

そう言って、まろい頬に付いた泥を指先で拭ってやった。

「やったぁっ!」

三蔵の言葉に歓声を上げて、悟空はその首にぎゅっと抱きついた。
その身体を抱き直し、三蔵は踵を返した。

close