ささやかな風景 #20

三仏神からの下命で出掛けた目的地で、目当ての宝具を探し当て、それを三仏神が納めろと指定した寺からの帰り道、その娘と出会った。
何て事はない花売りの娘だった。
ただ、出掛けに邪険に扱って泣かせてきた子供に、栗色の髪と琥珀色の瞳のその容姿が似ていたのだ。
重そうな花車を引いて歩く姿がどことなく痛々しく、寺院に置いてきた子供の姿と重なって見えてしまった三蔵は、思わず呼び止めてしまった。

「…あの…お坊様?」

呼び止めたはいいが、何の花を買うとか、どうするとか、一切何も考えずに呼び止めた三蔵は、黙り込むしかなくて。
戸惑った娘の呼びかけに、三蔵はようやく我に返った。

「あ、ああ…この赤い花を全部頼む」

三蔵が苦し紛れに指差した花を見て、娘は一瞬、その琥珀の瞳を見開いて、おずおずと確認をとってきた。

「あの…このお花で本当にいいのですか?」
「?」

問われて、三蔵は自分が指差した花を改めて見やった。
赤いラッパのような花と長い茎、艶やかな緑の葉とのコントラストが鮮やかで綺麗だった。
その花に何か支障でもあるのだろうか。
訳がわからずに娘の顔を見ると、

「あの…このお花は君子蘭と言って、値が張るのですが…いいのかなって…」

言いにくそうに告げながら、俯いてしまった。
それに三蔵は小さくため息をこぼすと、

「かまわねえから、全部包んでくれ」

三蔵はそう言って、娘に顔を上げさせた。

「はい」

娘はようやく笑顔を浮かべて頷くと、君子蘭の花束を作り始めたのだった。

「ありがとうございました!」

代金を三蔵から貰って、娘は深々と礼をした。
その拍子に高く結い上げていた栗色の髪が尻尾のように跳ねたのを三蔵は、軽く瞳を眇めて見つめ、赤い君子蘭の花束を抱えて踵を返したのだった。
娘の姿が見えなくなってから、三蔵は大きなため息をついた。
そして、手の中の花束を見やった。

「……湧いてやがる…」

己の行動を思い返せば自嘲しか浮かばず、けれど、養い子に似た娘の笑顔は心地よくて、三蔵はもう一度、大きなため息をつくと、寺院への道を辿った。
花束を見た養い子の驚いた顔を思い浮かべながら。

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