ささやかな風景 #21

ちらほらと咲き始めた桜が、ここしばらくの急激な暖かさに、あっという間に満開を迎えようとしていた。
三月に入ってそろそろ三蔵は、忙しくなって来ていた。
今も四月に行う灌仏会についての打ち合わせ会議へ出席する途中だ。
その会議への通り道の回廊から見える桜の花に、三蔵は紫暗を柔らかな色に染めて綻ばせた。

養い子は暖かさに誘われるように何処かへ遊びに出掛けているらしい。
会議に出掛ける前、忘れ物を取りに戻った寝所は、絵を描いていたのだろう、描きかけの画用紙とクレヨンが窓際に散乱していた。

桜が咲く頃になると何が嬉しいのか片時もじっとしていない。
桜が誘うのか、暖かさが呼ぶのか、養い子はこの頃はいつも外に出掛けていく。

桜の咲くあの日、声が呼ぶままに訪れた山の頂上で見つけた子供は、その心に闇を抱えてなお、明るく健やかにまっすぐに生きている。
汚れなく、それは綺麗なままで。

もうすぐ子供が生まれた日が来る。
この先も明るく素直に笑っていてくれればいいと、満開を迎える桜に三蔵は願うのだった。

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