ささやかな風景 #23 |
最近、と言っても、この何日かであるけれど、三蔵が変だと、悟空は思う。 ぼうっと、窓の外を見ているかと思うと、思い詰めたようなため息を吐く。 「何?」 訊いても、曖昧な返事しか返って来ない。 「…なあ、三蔵どうかしたのか?」 物思いに沈む三蔵の姿は、悟空を不安な気持ちにさせた。 「…ぁああ…」 悟空の問いかけに答える声も態度も上の空でしかない。 「そ…」 何気ない風を装って、湯殿に向かった。 何があったのか。 何があっても三蔵は悟空の介入を簡単には許してはくれない。 「ずりぃ…」 ぶくぶくと湯の中に沈んで、悟空は泣きたい気持ちを堪えた。
そんな悟空の気持ちを慮る余裕すらない三蔵は、茶の支度をしてきた笙玄に呆れ返られていた。 「いい加減、諦められるというか、腹をくくられた方がいいと思いますよ、三蔵様」 ため息混じりで言われた言葉に、笙玄を振り返って睨んだ。 「てめぇ…」 笙玄の言葉に三蔵が怒気を纏う。 「それに…何事も我慢が必要だと日頃、悟空や私に仰っているのは三蔵様じゃないですか」 怒る声に纏う怒気程の、威力はなかった。 「一日、我慢なさればいいんですよ。あの方は三蔵様がお側にいらっしゃるだけで幸せなのですから」 にっこり笑って差し出された湯呑みを恨めしげに見やって、三蔵はそっぽを向いた。 「お話相手をするのがそんなにお嫌ですか?」 きっと振り返った三蔵がばんっと、机を叩いて思わず声を荒げた所へ、悟空が湯殿から戻ってきた。 「…さ、んぞ…?」 びっくりした悟空の声と表情に、三蔵の表情がしまったと歪む。 「何なんだよ!何、隠してんだよぉ!ちゃんと言ってくれよ。でないと俺…俺…」 怒鳴り声は次第に小さくなり、悟空は俯いてしまった。 「…三蔵様」 ため息混じりに笙玄に名前を呼ばれて、三蔵はがっくりと肩を落とすと、小さく頷いたのだった。 「……悪かったな」 抱き込んだ悟空の耳元でそう言った三蔵は、今度は力を入れて悟空の身体を抱きしめた。 |
close |