ささやかな風景 #25

今日は朝からからっと晴れた。
いつもなら蒸し暑くて、三蔵などは仕事を放り出して、大雄宝殿の冷たい床とランデブーしているような夏の日だ。
けれど、今日は湿気もなくてからっとして、気持ちがいい。
こんな日に、部屋に閉じこもるなど勿体なくて、朝餉のあと、早々に部屋を飛び出してきた。

回廊を抜けて、裏山へ抜ける途中で、たくさんの本を抱えた笙玄に逢った。

「何してんだ?」

問えば、本の影から笙玄が顔を出した。

「本の虫干しです」
「虫干し?」
「はい」

悟空の言葉に笙玄は頷いた。

「なあ、虫干しって?」

笙玄が歩き出した後を追いながら、悟空が訊けば、

「書庫の書物に風を当てて、乾燥させるんです」

と、抱えた本を持ち直すように揺すり上げながら答えてくれた。
その重そうな様子に、悟空はひょいと、笙玄の手から本を半分程自分の手に取った。

「あ、ありがとうございます」
「うん」

にこりと、笙玄が笑って礼を言うのへ、

「虫干しって…三蔵の衣を干すみたいなもんなの?」

言えば、笙玄は大きく頷いた。

「そうです。三蔵様の衣が本になっただけです」
「そっか…面白そうだから手伝う」

興味津々だと言わんばかりの様子で笙玄に告げれば、

「助かります」

そう言って、手伝いを許してくれた。
それに嬉しそうに頷いて、笙玄と共に書庫に行った悟空は、書庫の蔵書の多さに目を剥いた。

「すっげぇ…」

絶句する悟空に笙玄は柔らかな笑顔を浮かべ、鬼の宣告を下した。

「今日中にやっちゃいますからね」

その言葉に悟空の笑顔が固まったのだった。

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