ささやかな風景 #27

大きく枝の張った木の下に三蔵と悟空は降り出した雨に追い立てられるように駆け込んだ。
駆け込んですぐ、空の底が抜けたような勢いで雨が降り出した。
重くたれ込めた雲で、辺りは夕暮れのように暗い。

「すっげぇ…滝みたいだ…」

梢の隙間から落ちてくる雨を鬱陶しそうに払っていた三蔵が悟空の言葉に雨の景色に視線を向けた。
本当に滝のような雨とはよく言ったものだ。
すぐ目の前の景色さえ見えない程の勢いで雨が降っている。

「あ、光った」

梢の向こうを透かすように見ていた悟空が声を上げた。
その途端、凄まじい音が辺りに響き渡った。
反射的に悟空の身体を三蔵が引き寄せる。
悟空も我知らず、三蔵にしがみついていた。
びりびりと音の余韻はいつまでも二人の鼓膜を振るわせていた。

「…びっくり…した…」

恐る恐ると言った風で、悟空は三蔵にしがみついたまま後ろを振り返った。
その途端、また、大音声が響き渡った。

「…さ、んぞ…」
「大丈夫だ」

腕の中に悟空を抱えたまま、三蔵は降りしきる雨を透かすように空を見上げた。
その視線の向こうで紫電が空を引き裂く。
間を置かずに鳴り響く轟音に、腕の中の身体がひくりと跳ねた。

「ここにも…落ちるかな?」

ぎゅっと、法衣を握りしめて問いかける瞳はいつもの強気はなりを潜めて、不安に彩られていた。

「落ちねえよ」

瞳を覗き込んで告げれば、金瞳が不思議そうな色を見せた。

「何で?」
「あいつらがそんなことはさせな…」

三蔵の言葉はまた鳴り響いた雷鳴に消された。

「お、落ちる…」
「大丈夫だ」

ぎゅうぎゅうとしがみついてくる身体を宥めるように撫でながら、三蔵は小さくため息をこぼした。

「大丈夫だから…落ち着け」

ぽんぽんとあやすように背中を叩き、三蔵は夕立と言うにはあまりの雨と雷に幻ではない誰かの意図を感じて今度は大きく吐息をこぼしたのだった。

close