ささやかな風景 #30 −共に闘う10のお題 03:庇わなくていい/配布先:七色の橋を渡って

「三蔵!」

反射的に身体が三蔵の前に出る。
振り下ろされる刃を如意棒で受け、全身を使って相手を弾き飛ばした。

「三蔵っ!」

振り返った悟空の顔が一瞬、強張る程の視線が悟空を射る。
けれど、気付かぬふりで手を差し出せば、力一杯叩き返された。

「…ってぇ」

痛みに顔を顰めて見せれば、

「死ね」

と、簡潔な言葉と共に、頬を銃弾が掠めた。
驚いて瞳を見開く悟空の後ろで、人が倒れる鈍い音がする。
その音に悟空は狼狽えたような何とも形容しがたい表情を浮かべた。
悟空の浮かべた表情に何を思ったのか、三蔵は小さく舌打ち、

「よそ見してんじゃねえ」

片膝付いた身体を億劫そうに持ち上げて、また戦闘態勢に入る。
その姿に悟空は先程抱いた訳のわからない気持ちも状況も忘れて見惚れた。

立ち込める鉄サビの臭いと土埃。
殺意と敵意に満ちたこの戦場なのに、三蔵は清冽に美しい。
白い法衣は汚れ、返り血と自身の血に染まっていても。
だから、守りたいと…。

乾いた銃声と微かな呻き声に、悟空の意識が現実に戻る。
途端、上がる悟空の声。

「三蔵─っ!!」

銃身で刃を受け止める三蔵の姿に、悟空の身体は無意識に反応する。
横合いから如意棒で三蔵に覆い被さるように刃を押し付ける妖怪の身体を突き上げ、薙ぎ払った。
そのまま、三蔵を背に身構える。

「三蔵!」

肩越しに振り返って見る三蔵は肩を怪我したのか、法衣に紅がゆっくりと広がっていくのが見える。

「大丈夫か?」

向かってくる敵を袈裟懸けに打ち倒して声をかければ、

「庇わなくていいっ!」

そんな返事と共に、銃声が続けて鳴り、悟空の目の前に迫っていた妖怪が血煙を上げて倒れた。
そして、

「そんな暇があるなら、さっさと片付けろ、サル」

言われて、何故か悟空の顔は嬉しそうに綻んだのだった。

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