ささやかな風景 #32 −共に闘う10のお題 05:お前ならできる/配布先:七色の橋を渡って− |
「できねえってば」 「いいからやれっ!」 「三蔵!」 紫色に腫れ上がった三蔵の右腕を痛そうに見つめて悟空は首を振った。 「悟空!」 三蔵の呼吸が少しずつ荒くなってくる。 「三蔵…!」 悟空は三蔵の怪我の状態も自分のしなければならない行動も理解できないほど、おろおろとするばかりで、三蔵が願う行動がとれる様子もない。 注意を怠った自分の迂闊さに腹が立つ。 「急げ、サル!」 小康状態の今、全身に廻る前にこの腫れ上がった部分を切り裂いて膿を出し、傷口を焼かなければ動けなくなる。 「わかった。もうてめぇには頼まねぇ」 三蔵は震える左手で、ナイフを握ると右腕の腫れ上がった患部に突き立てようとした。 「三蔵!」 その胸ぐらを三蔵は掴む。 「怯えるな。大丈夫だ。お前ならできる」 荒くなる呼吸を無視して、三蔵は泣きそうな悟空に言い聞かせる。 「大丈夫だ、悟空。お前なら必ず出来る。急げ」 煮え切らない悟空に、三蔵は掴んでいた手を離すと、その頬を力一杯張り飛ばした。 「…悟空っ!」 張り飛ばされた頬を押さえることも出来ず、悟空は崩れ落ちる三蔵の身体を無意識に支えた。 「三蔵!」 寝かせれば白い三蔵の頬が紙のように白い。 「…急げ、奴等がくる…」 ぜえぜえと、荒い呼吸の下で三蔵が悟空を促す。 「う…ぁ…あ…」 三蔵の言葉に背後を振り返った悟空は追っ手の気配を感じた。 「…わ、わかった…」 ようやく決心がついた悟空が頷けば、 「…お前、なら…できる…」 そう言って三蔵は微かに笑った。 |
close |