ささやかな風景 #34 −共に闘う10のお題 07:目的は同じ/配布先:七色の橋を渡って

悟空の小柄な背中が木立の向こうに消えたのを待っていたように、三蔵はその場にくずおれた。
荒い自分の息づかいが嵐のように三蔵の耳朶を打つ。
心臓が別のイキモノになったように暴れている。
朦朧とする意識の端で、見送った少年を思った。

方向音痴だが、何とか八戒と悟浄の元へ辿り着くだろう。
そうすれば、生き延びる。
自分も悟空も。
そうだ、何が何でも生き延びて、自分達は西を目指す。
与えられた仕事だと仕方なく旅立ったのは遙か昔。
今は、必ず辿り着いてこの事態を引き起こした元凶を一発殴らなければ気が済まないと思っている。

義務ではなく権利だ。

だから、こんな所で力尽きるわけにはいかない。
共倒れになるつもりもない。
生きるために、先へ進むために手段は選んではいられないのだ。
みっともなくても、生き残るために足掻く。

責任ではなく意地だ。
そして、何よりそれが目指すモノであり、賭けているモノだ。

幹に縋って身体を起こした三蔵は、背中をその幹に預けた。
動いた拍子に焼いた傷口が痛んだ。
その痛みに朦朧とした意識がはっきりする。
そして、気付く。
自分の荒い息づかい以外聞こえない静寂に。
風さえ成りを潜めたように、木の葉一枚揺らがない静寂。

「……?」

その張りつめたような静寂に気付いた三蔵の中に違和感が生まれた。

「……静か過ぎるだろ」

思わず呟いた自分の声が何かに呑み込まれた気がした。

「……何、だ…?!」

何の音もしない空間。
時間が止まったような静寂。
それはまるで結界の中にいるような…。

「……物好きな…」

そうして、この静寂の原因に気付いた三蔵の口元が苦笑に歪んだ。

「目的は…同じ…か?いや…気紛れか…」

呟いた言葉に、微かな揺らぎが返った。
それに三蔵は呆れたようなため息をこぼした。
そして、

「いいさ…生き延びるチャンスが増えたと思ってやるよ…」

誰に言うでもない呟きをこぼしながら、懐の銃を握った。

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