ささやかな風景 #35 −共に闘う10のお題 08:アイコンタクト/配布先:七色の橋を渡って

八戒と悟浄を連れて戻ってみれば、三蔵は木の根元に倒れていた。

「三蔵!」

駆け寄ろうとした悟空の肩を悟浄が掴んで止める。

「何だよ?!離せって!」

振り払おうとした悟空を八戒が止めた。

「悟空、前、三蔵の後ろ」

言われて、視線を投げれば武器を構えた妖怪達が三蔵のすぐ後ろに迫っていた。

「…ぁ」
「大丈夫です。奴等はまだ、三蔵に気付いていない」

言われても、自分が動けば三蔵に危害が及ぶ気がして動けない。
どうしたら…縋る想いで八戒を振り返る。

「悟浄」

八戒が悟浄をを見やった。

「わぁってるよっ」

言うなり、錫杖が風を切った。

「えっ?!」

しゃりしゃりと鎖の擦れる音と一緒に、妖怪達の悲鳴が上がる。
こちらに気付かないでいた妖怪達には、完全な不意打ちになった。
錫杖に切り裂かれ、妖怪達の身体の一部が血しぶきを上げて、森の中に舞う。

「悟空!三蔵をっ!」
「う、うん!」

八戒に突き飛ばされるようにして前へ、三蔵の元へ走り出した。
悟浄に襲われた妖怪達が、三蔵に気付く前に三蔵の傍へ走らなければ、悟浄の急襲は無意味になる。

「三蔵!」

滑り込むように三蔵の元へ転がり込めば、ふわりと何かが開く気配がした。

「…ぁあ…」

その気配に悟空は金瞳を一瞬、見開いた後、くしゃりと顔を歪めた。
守っていてくれた。
敵意を抱いているだろう三蔵を。
三蔵を失えば悟空が哀しむと知っているから。
何処までも悟空に甘い彼ら。

「……ありがと…」

嬉しくて、幸せで、でも、申し訳なくて、泣きそうな声の呟きが届いたのか、するりと悟空の頬を風が撫でた。

「…ごめん…でも…」

悟空はもう一度、ありがとうと呟き、気を失った三蔵の身体を抱え、八戒達へ視線を向けた。

妖怪達は悟空と三蔵に気付くことなく、悟浄と八戒と戦っている。
完全に二人の思惑は成功したのだ。

本当にあの二人は凄い。
何の相談もしないで、目だけで相手が何をしたいのか、するつもりなのか理解できるなんて。
自分と三蔵ではこんな風には行かないと思うから。

「すげぇ…」

悟空は、妖怪達を片付ける二人の姿にただ感心するばかりだった。

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