ささやかな風景 #37 −共に闘う10のお題 10:信じてる/配布先:七色の橋を渡って

「なあ…三蔵…」
「ああ?」

寝台に身体を起こして座り、新聞を読む三蔵に、その寝台の、三蔵の足元に座ってぶらぶらと足を揺らしながら悟空が、

「……なあ…あん時さ、俺が戻ってくるって信じてた?」

と、問いかけた。

「何だ?」

悟空の問いに、新聞に落としていた視線を上げて、三蔵は悟空へ視線を向けた。

「や…だからさ、あの時…三蔵が先に行けって言った時にさ、俺が八戒達を連れて戻って来るって、さ」

三蔵の視線からふいっと、顔を背けてもう一度問う悟空の、三蔵から見える項と耳が仄かに赤く染まっている。
それに気付いた三蔵は口元に微かな笑みを刻んで、

「別に…。自分の命ぐらい自分で何とでもするつもりで…──っ!?」

言いかけた言葉は、突然、目の前に迫った悟空によって遮られた。
そして、

「ダメだかんなっ!足掻いて、足掻いて、そんで生き延びて、生きるんだかんな!死んだらそこでお終いなんだからな!!」

噛みつくように三蔵にそう告げるなり、悟空は三蔵に抱きついた。

「お、おい…?!」

ベッドヘッドに押さえつけられるように三蔵は悟空の身体で押さえつけられた格好になった。

「…サル」

離せと、しがみつく腕に手を置けば、離すものかと益々きつくしがみついてくる。
その腕の強さに、悟空をどれ程不安にさせたか知る。

あの時、自分は確かに悟空が八戒達を連れて戻ってくると信じていなかった。
ただ、悟空を遠ざけ、生かすことしか考えていなかった。
悟空が生きれば、自分も生きることに足掻くのだと、そう思っていた。
簡単に命を投げ出すことなど、考えてもいなかった。
そう、悟空が叫んだように、生き残るために足掻く。

その思いを知っているはずでも、もしかしたらと、思いたくない想像をし、不安が芽生える。
同じような場面にまた、向き合えば同じ事をするだろう。
良くも悪くも、そう言う生き方しかできない。

三蔵はしがみついてくる悟空の背中にそっと腕を回し、ふわりと抱きしめた。

「…悟空」

そうして、名前を呼べば、ひくりと悟空の身体が震えた。
その反応に口元を綻ばせ、三蔵は小さく悟空に囁く。
途端、がばっと顔を上げる悟空の顔は、真っ赤に染まっていた。

「───っつ…!!」

何度か何か言おうと唇を振るわせた、あと、

「三蔵のバカ!」

そう言って、また、悟空は三蔵にしがみついたのだった。

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