ささやかな風景 #39

「あのさ、どうして俺を困らせるかな?」

呆れすぎて怒りしか湧いてこない心持ちでベッドの住人となっている相手を見下ろして言えば、

「ああ?」

と、問いかけている方が悪いと言わんばかりの視線と不機嫌な返事が返って来る。
その返事に思わず絞め殺してやろうかと殺意が湧いて来るが、それをぐっと堪えて悟空は言葉を続けた。

「何で、どうして、こうもやっかいごとに巻き込まれるのさ。それも普通なら何事もなく通り過ぎていくことに、何でいちいち引っかかるんだよ」

だんっと、ベッドサイドの壁を叩けば、安普請な宿なのか、バラバラと壁土が落ちてくる。
悟空の言葉にベッドの上の住人は悟空を睨み据えるばかりで、一言も返事をしない。
けれど、視線は突っかかって来る方が悪いと言っている。

「無視するとかじゃなくて、愛想ぐらいふりなよ。そしたら少しは揉め事が減るじゃんか」

何で出来ないのと、言えば、ベッドの住人は口をへの字に曲げて背中を向けてしまった。

「三蔵!!」

シーツを引っ張れば、

「うるせぇっ!」

起き上がるなり、枕が飛んできた。
それを受け止めて睨み返せば、枕を投げた本人がベッドに倒れ込む姿が見えた。

「さ…」
「やかましいっ!」

名前を呼ぶ声に覆い被さるよう怒鳴り声が上がって、ゼイゼイと荒い呼吸が続く。
そして、

「てめぇ…俺が…人当たり良かった頃を知ってて言うのか。あんなこと二度とご免だ」

そう言って、震える手でシーツを引き寄せると、頭からかぶってしまった。
悟空はその様子に、ぎゅっと枕を抱きしめて口をとがらせた。

「知らねぇもん…俺の知ってる三蔵に人当たりがいいなんて言葉ねえもん」

悟空の言葉にシーツが微かに動いた。
そして、小さな声が悟空の耳に届く。
その言葉に、悟空は枕ごと三蔵に飛びついたのだった。

close