ささやかな風景 #40 |
「おわっ!」 声が上がったと思った途端、素敵な音を上げて悟空が転んだ。 「ちゃんと足下を見て歩けと言ったばかりだろうが」 打ち付けた腰や尻をさすりながら悟空がそろそろと立ち上がった。 「ったりめぇだ。道が凍ってるんだ、滑るに決まってるだろうが」 言いながら、足下を注意しながら一歩一歩踏みしめるようにして道の端に立つ三蔵へ近づいてくる。 一方悟空は、何とか三蔵の傍まで来ると、来た道を振り返って腑に落ちないと言う顔をする。 「なんで、雪は溶けてねぇのに…道は氷になってるんだよ」 そんな悟空の様子に三蔵はこめかみを押さえてため息をひとつつくと、説明してやった。 「昨日、天気が良かっただろうが。太陽の熱で道に積もった雪の表面が溶けて水になったところを夜の寒さでその溶けた水が凍って氷になったんだよ。だから滑るんだ」 三蔵の説明に頷いて、悟空は笑った。 「三蔵も気をつけろよ」 などと言うから、三蔵は怒っていいのか、呆れていいのか、どうしてくれようと思う気持ちに返す言葉が見つからない。 「何だよ、心配してやってんのに」 その背中を見つめて、悟空はため息をひとつついて、後を追うように歩き出した。
「なあ三蔵」 黙々と凍った雪道を歩くのに飽きてきた悟空は三蔵に声をかけた。 「なんだ?」 振り返ることなく返事が返るのへ、 「次の仕事の街って、どんなとこ?」 と、問えば、 「ああ?いつもとさして変わらん」 と、いつもと同じ返事が返った。 「ええ!美味しいもんとかねぇの?」 とりつくしまのない三蔵の返事に、悟空が三蔵の傍へ寄ろうと歩く速度を上げたのへ、 「なるか!それよりてめぇ、転ぶんじゃねぇぞ」 言った傍から悟空が転んだ。 思わず何かに縋ろうとして、悟空は目の前の三蔵の外套を掴んだ。 「自業自得だアホウ」 そう言って、道に転んだままの悟空を置いて、三蔵はまた、歩き始めたのだった。 |
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