ささやかな風景 #42 |
ただでさえ白い顔色が今は、血の気の全くない白さに染まって、美しい紫暗の人も意は固く閉ざされていた。 いつもほんのりと赤い唇も色を失っている。 何より、息をしていないのではないかと疑いたくなるなるほどの静かな呼吸に、悟空は今にも泣きそうな表情を浮かべて、三蔵を見つめていた。 三蔵が床についてもう十日以上になる。 今回の仕事は予想以上に三蔵の力を酷使することになった。 もともと体力、いや健康なぞ何処へ置いてきたと言うほど弱い身体に、有り余るほどの魔力を持って三蔵は生まれた。 けれど、いくら鍛えても体力は付かず、いくら療養しても虚弱なで、健康にはならなかった。 剣を振るえば強くとも持久力はなく、魔力を使おうものなら三日は寝台から起き上がれない。 「なあ…いい加減、起きろよ…」 少し顔色の戻った三蔵の寝顔を見つめて、悟空が声をかけても、三蔵が目を覚ます気配はなかった。 「!!」 反射的に悟空は入ってきた入ってきた人間を叩き伏せ、見やった先に焔が立っていた。 「よう、斉天、迎えにきたぞ」 焔は悟空が何であるか知っている数少ない人間で、悟空を所有したいと願う人間だった。 三蔵を庇うように立つ悟空に笑いかけ、焔は悟空に手を伸ばした。 「そんなポンコツさっさと見捨てて、俺と来い。今回のことでよくわかっただろ?」 悟空の腕を掴めば、 「ふざけるな」 声が聞こえた。 「三蔵!!」 悟空は焔に掴まれた腕をふりほどいて三蔵の元へ駆け寄る。 「ほう…気が付いたのか」 笑い飛ばせば、 「三蔵は俺の唯一無二の所有者だ――」 悟空の声がそう告げ、まとう雰囲気が変わった。 「――下がれ。我が主は江流。お前ではない」 声が変わり、悟空の髪や服がゆらりと悟空を包むように立ち上がった光に揺らめく。 「斉天――」 三蔵が悟空の真名を呼んだ。 途端、焔とその部下たちの周囲に風が起こり、その風共々その場から消された。 「三蔵!」 はっと、我に返った悟空が三蔵を振り返れば、 「大人しくしてやがれ…」 そう言って、三蔵は意識をまた、手放したのだった。 |
close |