ささやかな風景 #5

三蔵と一緒に買い出しに出た。
くじ引きとじゃんけんで負けた俺と三蔵は、八戒に渡された買い出しメモを見て思わず目を剥いた。
だって、二人じゃどう見ても持ちきれない量だったから。
でも、負けた手前文句も言えなくて、三蔵と二人仕方なく出かけた。

今日の宿は川沿いにあって、川風が気持ちいい程吹き抜けるから思った以上に涼しい。
市場に出るのに川添いを歩いて橋を渡らないといけないんだけれど、堤防の両脇は木が植えられていて、まるで林か森みたいになっている。
その木の間を川風が吹くから天然のクーラーの中にいるみたいに涼しくて気持ちがよかった。

でも……

並んで歩く俺の横で三蔵が物凄く煩そうに舌打ちした。
だって、蝉の鳴き声、凄すぎ。
耳がキーンって鳴るぐらいわんわん響く大合唱で、話し声も聞き取りにくいぐらいだから。
それが宿をでてからずうっと続いてる。

寺院に居る時に聞こえてきた蝉の鳴き声は煩いけど、「ああ、蝉が今日もよく鳴いているなあ…」って思うぐらいだった。
でも、今のは違う。
それはもう、騒音と言っていいと思うぐらいに煩い。

「…三蔵、耳が変になる」

三蔵の法衣を引っ張って言えば、深く寄った眉間の皺が一層深くなって、纏う空気が不穏になった。

「…さ、んぞ?」

どうしたのかと見上げれば、反対の手が懐に入って、かちりと、微かな金属音が聞こえた。

それって…もしかして?

なんて、悠長に思っている間に三蔵の手は愛用の銃を懐から掴みだし、激鉄を起こしていた。

「さ、三蔵!」

止める間もなく、銃を握った手は上に掲げられ、引き金が引かれた。
途端、当たりに響き渡る乾いた一発の銃声。
その音の余韻がやたらによく聞こえると思ったら、水を打ったように辺りは静まりかえった。

「よし。行くぞ」

すたすたと歩いて行くその後ろ姿を俺は呆然と見送った。

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