満 月 (寺院時代)
木枯らしの吹く凍てついた夜道を楽しげに踊るように歩く影とその後ろをゆっくりと辿る影が歩いていた。

晴れ渡った夜空には冬の満月。
秋の夜に見る煌々とした明るさではなく、どこか凍てついたような透明な光を辺りに投げかけていた。

その光に照らされて、三蔵と悟空は夜道を歩いている。
仕事を終えた帰り道。
もうすぐ日付の変わる時間だった。

「風が冷たいけど、気持ちいい」

両手を広げて冷たい風を躯に纏うようにくるりと回って、悟空が笑う。

「寒いけど、寒くないーっ」
「…アホ」

鼻の頭を赤くしてそれは嬉しそうに三蔵に笑ってみせる悟空の笑顔に、三蔵は小さく呟いた。
その声を聞き咎めて、悟空が立ち止まって振り返った。

「何だよ、いいじゃんか。俺、楽しいんだからさ」

むうっと、寒さで赤く染まったまろい頬を膨らませ、べぇっと悟空が顔を顰める。
それに、三蔵は口元を綻ばせて、

「益々、バカ…」

そう言って笑った。

「もうっ」

そう言いながら三蔵の笑顔に悟空の顔は綻んで、ふわりと笑顔になる。
二人から白く生まれる吐息は、木枯らしに攫われて夜の中へと消えていく。

「いいよ、バカで。楽しいからいい」
「バァカ…」

くすくすと笑って悟空は三蔵に背中を向けた。

「楽しいからいいもん。なぁ…」

吹き渡る木枯らしに同意を求めてくるりと回り、コートを翻し、首に巻いたマフラーを揺らして悟空が飛び跳ねるように歩き出した。
その後ろを法衣の上にインバネスを纏った三蔵が苦笑混じりの呆れた顔で付いて歩く。

年末年始、節分、春節と行事が立て込んで、その寺院の行事の合間に三仏神からの下命まで加わって、悟空と顔を合わせることなど、まして構う暇など欠片もなかった。
側仕えの僧侶から漏れ聞く悟空の様子に、心を砕くこともままならない状態で今日まで来た。

ようやく、寺院の仕事が一段落付き、息がつける状態になったのを待ちかねたようにまた、三仏神に呼び出され、仕事を言い付かった。
その仕事に三蔵は悟空を伴って出掛けた。

仕事を終えた帰りに街で夕食をすませ、少し遠回りして二人で夜の散歩を楽しむことにした。
野盗と化した妖怪退治という単純な仕事だったのもその理由ではあったが、何より忙しくて構ってやれなかった三蔵なりの罪滅ぼしのために。

また、月が変われば忙しい仕事が待っている。
その束の間、この明るく透明な愛しい子供と共にたわいもない時間を過ごすのもいいではないか。

二人の躯を吹き過ぎる木枯らしも心地よく感じて、三蔵は小さく笑った。

そんな道行きを晩冬の満月が凍てついた、けれど優しく穏やかな光で照らしていた。

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