赤い月の下で逢いましょう (parallel/from 面食い吸血鬼) |
初めて彼を見たのは何時だったか。 日没に目覚めて、退屈な夜を過ごすのに飽きた悟空は、同居している焔に黙って外へ出掛けた。 上ったばかりの月は東の空に金の虹を従えて、山並みの上に低く浮かんでいた。 それを屋根の上から眺め、悟空は両手を広げた。 ふわりと空気を振るわせてその背中に羽が現れた。 それを音もなく振るわせて、夜空に舞い上がった。 夜の一族。 悟空は始祖の直系と噂される一族の末裔。 そんな異形の少年。 「…気持ちいい」 くるりと身体を廻して滑るように夜空を滑空すれば、視界の端に閃きを捉えた。 「何?」 高度を下げればそこはマンションの屋上で、そこに金髪の男がいた。 「うわぁ…」 月に閃く金糸は絹糸のよう。 「何て、理想的…」 きっと、その命も甘く甘美だと悟空に思わせた。 それから、悟空は夜の散歩にかまけて彼の姿を求めるようになった。
夜の散歩に出てきた悟空と焔は、彼を最初に見つけたマンションの屋上でひとり煙草を吸う彼を久しぶりに見つけた。 「ほら、な、綺麗だろ?」 悟空が指差す青年を見下ろして、傍らの焔が興味なさそうに頷いた。 「お前の好きなタイプだな」 にこっと笑う。 「相変わらずの面食いだな」 焔の言葉に悟空は嬉しそうに頷いた。 「おう。綺麗な奴はその血も甘くて美味しいんだ」 呆れたと言わんばかりの焔に、悟空は唇を尖らせる。 「そりゃ、外れもあるけど滅多にないし、それに、いいじゃん。長く生きてると楽しみが少ないんだから」 つんと顎を逸らせて拗ねて見せる。 「拗ねるな」 くすくすと笑って宥めれば、悟空はぺろりと舌を出して見せた。 「でも、本当にあいつ綺麗だよ」 うっとりと青年を見下ろす悟空に焔はふと、浮かべていた笑顔を消して問うた。 「連れて帰るか?」 と。 「いいや…」 これほど気に入っているのなら、今夜は自分もいるのだから人間一人ぐらい簡単に連れて帰ることができるのに。 「悟空?」 その出逢いを待つと、悟空は笑った。 「なら、好きにするさ」 そう言って焔はもう一度、青年を見下ろしたのだった。 |
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