あの月に誓おう (parallel/from Gap)
空が高い。
流れる雲を見ながら悟空はため息を吐いた。

中天には上弦の半月。

秋が深くなる程、気持ちは重くなる。
もうすぐあの日が来る。

あれは事故だった。
多分、きっと、事故だった。
そう思いたい。
今もそう思っている。
事実は違ってもそうだと信じている。

「いってらっしゃい」

と、祖父と見送った父と母。

「お留守番、お願いね」

ふわりと触れた母の柔らかくて暖かい手と甘い薫り。

「おじいさまを困らせるなよ」

くしゃりと、頭を撫でてくれた父の大きな手の温もり。
いつも傍にいる三蔵にも同じように両親は触れて、彼らは出掛けて行った。

それきり二人は二度と戻らなかった。

それは秋も盛りの、月の綺麗な日だった。

そして、あの日。
我が儘を言ったわけでもなかった。
ただ、本当にささやかな願いだったのだ。

「一人で買い物に行きたい」

たったそれだけの─────

けれど、許されるはずもなく、自分が置かれた立場をよく考えろと諭された。
怒られるわけでなく、無理矢理止められた訳でもなかった。
ただ、立場と状況を自分でよく考えろと、三蔵は困ったような瞳で悟空に告げた。

でも、どうしても気持ちが収まらなくて、止める手を振り切って側を離れた。
自分の置かれた状況が危険だと知っていた。
知っていたけれど、どれ程危険かという自覚は無かった。
目の前にぶら下がった楽しいことしか見えていなかった。

それが何を誘発し、何を失うのか。
知った時には、掛け替えのないものがこの手から消えていた。



そして─────



戻ってきた掛け替えの無かったものは、姿形だけ同じ器となっていた。
それでも、嬉しかった。

だから、今度は自分が守るのだ。
どんなことをしても、何を犠牲にしても、必ず守る。

同じで同じでないあの愛しいものを…。

テラスから一向に戻ってこない悟空を心配して、でも、そんな素振りは欠片も見せずに、怒った姿を見せた彼に悟空は仄かに笑って振り返ったのだった。

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