月の下で舞う君 parallelfrom Get out
煌々と照る満月の夜、久しぶりに車を出した。
日頃、その姿の所為で外へ出してやれない悟空のために三蔵は、日が暮れた夜半、広い場所へ、その美しい翼を広げられる場所へ出掛けたのだった。

「…ごめん…疲れてるのに……」

出掛ける時に必ずそう言って遠慮がちに笑う悟空の笑顔を見るたびに、三蔵はあの星から連れ出さなければよかったのかと、思ってしまう。
けれど、あの寿命が尽きかけていた太陽と星に残してくるなど、考えもしなかった。

ただ、連れて帰る。

そのことだけを思っていた気がする。
あの夜と昼が同居する星で、淋しげに笑って全てを諦めていた姿と赤い空を飛ぶ姿の美しさに自分は虜になったのだ。

たった独りの種族、最後の生き残り。

科学者として興味が無いわけではない。
無いわけではないが、それよりも愛おしい存在なのだ。
だから、家に閉じこめ、人目に晒すことを怖れている。

勝手な独占欲。
身勝手な愛情。

それでも手放したくはないのだ。

そんな三蔵の想いなど知ることもなく、悟空は三蔵が連れてきた広い草原に瞳を輝かせ、車から降り立った。

「…月が大きいよ?」

遮る物のない草原に浮かぶ月は、普段、家から見る月とは違って大きく見える。
実際、この惑星の衛星である月は、遠い故郷である地球の月よりも大きい。
だから、遮る物がない広い所ではその大きさを目の当たりにするのだ。

そして、今の時期、月は惑星に一番近づく時期でもあったから、尚のこと大きく見えるのだった。

「眩しいね」

月の光を浴びて振り返る悟空の姿に三蔵は軽く紫暗を見開き、その身体を抱きしめそうになった。
その衝動を堪えて悟空の姿から視線を逸らし、月を見上げて三蔵は頷く

「まあ…な」
「うん」

三蔵の中途半端な答えにも悟空は嬉しそうに頷くと、翼を広げた。

純白の翼。
その心のように、素直で、美しい汚れを知らない翼。

眩しい月光の中でより輝いて見える純白の翼に三蔵は瞳を眇め、飛んでこいと合図を送った。

「行って来ます」

軽く三蔵に手を振って、悟空は軽々と夜空に舞い上がった。
微かに響いた羽ばたきの音と柔らかな風が三蔵の金糸を軽く揺らす。

舞い上がり、満月の光の中を飛ぶ姿は本当に遠い昔、地球にあった宗教施設に描かれていたフレスコ画の天使のようだ。
その姿を眩しそうに見上げる三蔵へ時折手を振って、悟空は月光の中、心ゆくまでその翼を広げた。

いつか、自由に人目を気にせず、晴れた青空を、星降る夜空を、飛ばせてやりたいと、三蔵は隠しておきたいと願う気持ちの裏側で願うのだった。

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